毎年恒例となったサラリーマン川柳コンクールがまた始まった。来日してまもなく、第一回の傑作発表が行われたのだが、和歌や俳句のような難しいものはあまりよく理解できなかった私にも面白さが感じられ、すっかり気に入ってしまった。それから20数年、毎回の入選作品を読むことが私の習慣になり、楽しみの一つでもある。
1980年代後半から90年代初頭にかけてのバブル期、世間は好況に沸き立ち、バブル紳士・淑女たちが跋扈し、その恩恵にあずかれなかった人々までもなんとなく裕福な気分に満ちていた。「とこや行く 金・ひまあれど 髪がない」、薄毛の悲哀を皮肉る句だが、金回りの良さが感じられる。一億総中流の時代だった。
しかしほどなくバブルは崩壊、失われた10年を迎え、更にサブプライムローン問題による金融危機が発生した。サラリーマンの終身雇用制が崩壊し、企業の経営環境が悪化する中、「人が減り 給料減って 仕事増え」、「ボーナスも 今の流行か 薄型に」。パワーハラスメントでひどい目に遭い、家庭でも粗大ゴミ扱いされるおじさんたちは「仕事減り 休日増えて 居場所なし」になった。その奥方たちもガソリンや食品などの値上げラッシュで生活が圧迫され、「とりあえず 100円ショップで 捜す癖」が付いてしまい、「百均が 標準価格の わが家計」を余儀なくされた。こうした作品からはサラリーマンの溜息がひしひし伝わってくる
景気や経済のことだけではなく、厳しい職場環境、温もりを失った家庭を嘆く句も多い。「このおれに あたたかいのは 便座だけ」はその代表格だと言えるだろう。
このように、わずか17文字の川柳に世相の変化、時代の移り変わりがはっきりと感じられ、実に奥深い。
季語など細かな制約がなく、思いつくままサラリーマンの悲哀を軽妙に表現し、社会風刺やブラックユーモアにも富んで、時々の世相を反映しているサラリーマン川柳。ほんとうに魅力的で面白く、私は大好きである。
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