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悪天下に河原(かわはら)でキャンプをしていた十数人が増水(ぞうすい)した川に流される惨事が、10年前の夏休みにあった。そのとき小紙夕刊(ゆうかん)のコラム「窓」に、航空界で語り継(つ)がれてきた「臆病者(おくびょうもの)」の話を書いたのを、北海道・大雪山系での遭難(そうなん)を聞いて思い出した▼1966年、日本の空は大事故が相次(あいつ)いだ。3月にはカナダの旅客機が濃霧(のうむ)の羽田(はた)への着陸(ちゃくりく)に失敗して炎上(えんじょう)し、64人が犠牲になった。その事故の直前に、羽田への着陸を断念して福岡に向かった日航機があった▼ハワイから飛んできた瀬戸号(せとごう)である。降りるにはぎりぎりの気象だった。2度着陸を試みたが滑走路がよく見えない。安全に自信の持てなかった機長は行き先を変更する。東京を目の前にしての事態に、乗客からは落胆の声が上がったそうだ▼福岡での入国手続きが手間取ったために不満は募った。だが、機内で待たされてロビーに出た乗客はそこで、炎上するカナダ機のテレビ映像を目にする。不満は一転して機長への感謝に変わっていったという▼そして、「臆病者と言われる勇気を持て」という格言が航空界に広まっていった。人間や、人間の造った文明をひねりつぶすことなど、自然には造作もない。空に限らず海でも山でも、謙虚な勇気が必要な時は少なくないはずだ▼あすの「海の日」へ続く連休で、今年も夏休みシーズンの幕が開いた。北海道の遭難は悪天をついての強行(きょうこう)が大きな原因と聞く。今年だめでも山は逃げず、海も逃げない。臆病なほど相手の機嫌(きげん)をうかがう構えが、自然との遊びには肝要(かんよう)である。
注:相次ぐ:①物事があとからあとから続いて起こる。②受け継ぐ。伝えていく。また、相続(そうぞく)する。
機嫌:①表情矢態度に現れる気分のよしあし。快・不快などの感情。気分。②人の意向や思わく。また、安否やようす。③そしりきらうこと。気悪すること。
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