現代社会の基礎知識

急激な都市化でどんな問題が起こったか？

その解決法としてどんなことが行われているか？

 

1-0-1急激な都市化

　日本では、1955年から1970年にかけて経済が急成長している時期に、第二次産業と第三次産業が大変発展し、これらの仕事についている労働者の数が非常に増えた。

　とくに、太平洋沿岸の太平洋ベルト(→p.117)に、第二次産業と第三次産業の発達した地域が集中したため、そこの人口が増えることになった。かわりに、第一次産業を中心とするそのほかの地域の人口が減ったので、新たに人口の過密と過疎の問題が生まれた。

 

　この太平洋ベルトを中心に重化学工業が発達し、短期間に都市部の人口が増加して都市化が進んだ。都市化とは都市に人口が集中することだが、このような急速な都市化のため、都市環境は非常に悪化し、人口過密にともなっていろいろな問題が生じた。

　中でも、東京や大阪などの大都市では、行政の施策が追いつかず、道路網・住宅・病院・学校・上下水道など社会的共通資本(社会資本)が不足したため、住宅問題・交通問題・都市公害などの都市問題が、とくに深刻になった。

 

1-0-2都市間題

　住宅問題では、都市の中心部の地価(土地の値段)が高くなったため、人々は中心部から遠く離れた郊外に住むようになった。都市中心部の居住人口が減り、周辺部の人口が増える現象は、ドーナッツ化現象と呼ばれる。

　一方、郊外は、無計画に開発されて土地が虫食い状態になり(スプロール現象)・社会資本が計画的に整備されないため、住まいの環境が悪化した。

　職場と住居が別のところにある職住分離がさらに進み、遠距離の通勤・通学や、通勤ラッシュ・通勤地獄(過度の通勤混雑)が一般的になった。しかし、通勤地獄を解消するために交通網を整備すればするほど、郊外の住宅化が進み、スプロール化も進むことになった。

 

　公害問題では、多くの都市が工業中心に発達したため、工場からの騒音・振動・悪臭、地下水のくみ上げによる地盤沈下、煙による大気汚染、排水による川・海・湖・地下水の汚れなどの問題が生まれた。また建物の高層化による日照の妨げ、自動車の排気ガスによる大気汚染なども、大きな問題になった。交通問題では、交通量の増加に道路整備が追いつかず、そのため混雑・渋滞・危険な交通状況の増加といった

問題が深刻になった。医療福祉施設や公園・緑地、上下水道、道路、図書館などの公共施設や、ごみ処理などの公共サービスの整備が、人口の急増に追いつかない都市もあった。

 

1-0-3大衆の誕生

　産業革命(→p.134～)をへて、20世紀の技術革新により工業生産力が大いに増して、商品が大量生産され、大量消費されるようになった。その結果、人々の生活水準は向上したが、人々は画一的・平均化した商品を手にするようになり、生活スタイルが均質化した。

　一方、普通選挙の実現で、すべての人々が政治に参加できるようになり、また、マスコミ(→p.11)の発達で、同じような大量の情報が一方的に人々の間に流れるようになったため、人々の考え方・価値観などが似てくるようになった。

　このようにして、20世紀前半には、欧米先進国を中心に、生活スタイルから生活文化、考え方・価値観にいたるまで均質化した人々(大衆)が、社会に登場することになった。

 

1-0-4大衆社会

　大衆社会では、人々の考え方や生活スタイルが均質化しているが、一見すると、これは民主主義にとってよいことにみえる。しかし、民主主義にとってはよくないことである。

　たとえば、現代の消費環境のなかでは、多種多様な商品のなかから選んでいるようでも、実は大量生産された似た規格品のなかから選択しているにすぎない。しかも、広告・宣伝のやりかたで人々の欲求・需要が左右され、皆が買うから自分も買うという消費行動を生みやすい。

これは政治においても同様で、政治的リーダーが宣伝などで人々の考え方を操作して、その投票行動などをあやつる危険性が常にある。第二次世界大戦前の、ヒトラーが率いたナチス・ドイツがこの典型的な例である。

文化や芸術においては、大衆の興味・関心を引きやすいものが流行するようになり、大衆の好みに合わせた低俗な作品ばかりになってしまうことが多い。やはり政治においても同様で、大衆は、政治家の信条や政策ではなく、大衆に迎合した政治家のイメージや容貌で投票などを決めることが多くなる。

さらに大衆社会では・政治や社会のシステムが巨大になり複雑になるにつれて、個人では政治社会の動き理解することができなくなる.すると、社会に関係している実感が失われそのため大衆は投票を棄権するなど、政治に無関心になったり、現実から逃げるようになる。