二.謙譲語の正しい使い方
1. 自著の感想をたずねるとき
× わたくしの本をお読みになった感想は…
〇 拙著をお読みになった感想は…
ポイント:自分、自分の所属する会社や事物、自分の家族についての謙譲表現を覚えよう
代表的な謙譲の接頭辞には、「拙」「愚」「弊」「小」がある
2. 自社製品を買ってもらったとき
× わが社の商品をお買い上げいただき、ありがとうございます
〇 わたくしどもの商品をお買い上げいただき、ありがとうございます
ポイント:「ども」は一人称につけると、敬譲表現となる
3. 初対面で自己紹介をするとき
× はじめまして、自分が山田です
〇 はじめまして、わたくしが山田です
ポイント:「自分は」は軍隊用語。会社で使うのは不適切
4. パーティーへの招待を受けるとき
× 喜んで行かせてもらいます
〇 喜んでおうかがいします
ポイント:「おじゃまする」は「行く」「訪問する」の謙譲動詞
楽しい席に招かれたときに「おじゃまする」は不適切
5. 訪問先で飲み物を聞かれたとき
× お茶でいいです
〇 お茶をいただきます
ポイント:もてなしを受けるときは、謙譲の動詞「いただく」「ちょうだいする」を使おう
6. 会合の出席を伝えるとき
× A社の山田さんにもいらっしゃってもらっています
〇 A社の山田さんにもおいで願っています
ポイント:来てもらうときには、「おいで願う」。「おいでいただく」でもよいが敬意は低くなる
7. 上司をたずねてきた人に不在をつげるとき
× 課長は今いらっしゃいません
〇 課長は今おりません
ポイント:どんなに地位が高くても、自分が属する組織の人間は低めて言う
上司の家族には、上司を高めて言う
8. 訪問先で電話を借りるとき
× 電話を借りられますか
〇 電話を拝借できますか
ポイント:尊敬の助動詞「れる」「られる」は、可能の助動詞と混乱しやすいので、避けるほうが無難
「拝~」は自分の行為以外には使えない
9. 上司から頼まれた使いを断るとき
× 行ってもいいのですが…
〇 まいりたいのですが…
ポイント:「~してもいい」は対等な言い方なので、目上の人に対しては使えない
「まいる」を使えるのは、話し手(自分)の行為についてだけ
10. 会合に必要なものを告げるとき
△ 当日は、先日お渡しした資料をご持参ください
〇 当日は、先日お渡しした資料をご用意ください
ポイント:「ご持参ください」、敬語表現+謙譲語だが、現代では許容
11. 指定時刻までに配達できるとき
× 届けられます
〇 お届けできます
ポイント:「お(ご)~できます」は、相手のために何かをするときの謙譲表現
12. 社内の人間への伝言を依頼されて
× そのように山田にお伝えしておきます
〇 そのように山田に申し伝えます
ポイント:「お(ご)+動詞連用形+する」は、便利な謙譲表現
「伝える」の謙譲動詞は「申し伝える」
もとの動詞で謙譲語をつくるより、謙譲動詞を使ったほうが、高い敬意を表せる
13. 見覚えのある人に会ったとき
× 以前、会われたことはありませんか
〇 以前、お目にかかったことはありませんか
ポイント:尊敬表現をつくりにくい動詞の場合は、主体を変えて謙譲表現に
複数の敬語表現がある場合は、相手や状況によって使い分け
14. お客に用件をたずねるとき
× ご用件をおっしゃってください
〇 ご用件を承ります
ポイント:「~ください」は命令に聞こえるので使わない
お客に対して使うなら、「うかがいます」より「承ります」
15. 上司に「企画書を作成して置くように」と言われたとき
× 五日までにやっておきます
〇 五日までに作成いたします
ポイント:「やる」は、ビジネスの場には不適切
16. 上司に意見を述べるとき
△ わたくしとしては…
〇 わたくしといたしましては
ポイント:「する」→「します」→「いたします」の順に敬意が高くなる
17. 上司に同行を求められたとき
× ご同行します
〇 ご一緒します
ポイント:「ご一緒」はあとに続くことばに注意
18. 記念品を贈るとき
× 出席者全員に記念品をお渡しします
〇 出席者全員に記念品を差し上げます
ポイント:「差し上げる」は敬意が高い表現
19. 共通の知り合いが話題にのぼったとき
× 私も山田さんのことはよくご存知です
〇 私も山田さんのことはよく存じ上げています
ポイント:「存じる」の尊敬と謙譲の混同に注意
20. 上司に知らせたいことがあるとき
× お聞かせしたいことが少々…
〇 お耳に入れたいことが少々…
ポイント:「お耳に入れる」は大事な話を告げるときにぴったりな謙譲表現
21. 酒のすすめを断るとき
× けっこうです
〇 遠慮いたします
ポイント:「けっこう」には肯定と否定の意味の両方があるので、使わないほうが無難
「ご遠慮ください」は間違え
22. お客に氏名を書いてもらうとき
× こちらにお名前を書かれてください
〇 こちらにお名前をお書き願います
ポイント:「ください」を単独で使うと命令に
頼みごとには「お~願います」
23. 説明を終えたあと
× おわかりになりましたか
〇 ご理解いただけましたか
ポイント:「わかる」にはきつい響きがあるので、目上には使わない
24. 誕生パーティーに誘うとき
× 万障お繰り合わせのうえ…
〇 ご都合がつきましたらぜひ…
ポイント:「万障お繰り合わせ」は、私的な案内状には使えない
25. お客に高級な茶菓子を出すとき
× つまらないものですが
〇 お口に合いますかどうか
ポイント:「つまらないものですが」を連発しない
26. 上司からほめられたとき
× おほめしてくださり光栄です
〇 おほめにあずかり光栄です
ポイント:フォーマルな場では「~にあずかる」を使う
三、丁寧語
1. 先に帰る上司に
× 部長、ご苦労さまでした
〇 部長,お疲れさまでした
ポイント:「ご苦労さま」は、目上の人に対しては使えない
2. 他社の人に筆記具を借りるとき
× 書くものある?
〇 書くものありますか
ポイント:「親しさ」と「なれなれしさ」は違う
ふだんから「です」「ます」を使って話す習慣を
3. 自己紹介をするとき
× わたくしが担当になりました山田です
〇 わたくしが担当になりました山田でございます
ポイント:語尾を曖昧にせず、最後まで丁寧に言い切ろう
4. 相手の指示を受けるとき
× なんなりと言ってください
〇 なんなりとお申しつけください
ポイント:「ください」は命令形なので敬語として不適切
謙譲語の意味が薄れた「申す」は、相手の行為についても使える
5. 依頼を断るとき
× 無理です
〇 いたしかねます
ポイント:断るときは「拒絶」のニュアンスにならないように、「かねる」を使う
6. 励ましてもらったとき
× すみません
〇 ありがとうございます
ポイント:「すみません」は謝罪のことば
7. お客を待たせるとき
× 係りの者は、すぐにまいります
〇 担当の者は、ただ今まいります
ポイント:ビジネスの場では、「すぐ」より「ただ今」を
8. 在庫なしをお客に告げるとき
× もう売れてしまいました
〇 あいにく売れてしまいました
ポイント:相手の立場に立ってことばを選ぼう
9. 偶然出会った仕事上の知り合いに
× どこに…
〇 どちらに…
ポイント:「どちら」とぼかすことによって、ぶしつけな感じを避けることができる
10. 他社の人と久しぶりに接触したとき
× しばらくです
〇 ごぶさたしております
ポイント:久しぶりの連絡や訪問には丁寧なあいさつを
11. 上司の家人の葬儀でお悔やみを言うとき
× 課長、このたびはかえすがえすも残念です
〇 課長、このたびはご愁傷さまです
ポイント:弔辞では、重ねことばは使わない
12. 身内の不幸を告げるとき
× 先日、祖母が亡くなりまして
〇 先日、祖母を亡くしまして
ポイント:「亡くなる」は尊敬表現なので、身内に使うのは不適当
13. 接客中の上司に話しかけるとき
× あのう、課長
〇 恐れ入ります。課長
ポイント:「恐れ入ります」は、謝罪や感謝の気持ちを表す決まり文句
14. 上司からほめられたときの一言
× どうも
〇 恐縮です
ポイント:「恐縮です」は「ありがとうございます」より敬意が高い
15. 上司や取引先に謝るとき
× ごめんなさい
〇 申し訳ありません
ポイント:「申し訳ございません」は、もっとも敬意の高い謝罪のことば
16. 上司よりも先に帰るとき
× 今日はこれで帰ります
〇 今日はこれで失礼します
ポイント:「失礼します」は職場を引き上げるときの定番のあいさつ
17. 上司から自宅へ誘われたとき
× 突然では、悪くありませんか
〇 突然では、ご迷惑をおかけしませんか
ポイント:自宅への招待には、「ご迷惑をおかけしませんか」の一言をそえる
18. 急な仕事を依頼するとき
× なんとか明日いっぱいで頼みます
〇 なんとか明日いっぱいでお願いします
ポイント:強引な「頼む」より、婉曲な「願う」のほうが好ましい
19. 上司に話があるとき
× 課長、今どうですか
〇 課長、今よろしいでしょうか
ポイント:目上の人に話しかけるときは「今よろしいでしょうか」の一言を
20. 初対面の人に自己紹介をするとき
× こんにちは、わたくしが山田です
〇 はじめまして、わたくしが山田です
ポイント:「こんにちは」は初対面では使わない
21. 仕事の訪問先で茶菓を出されたとき
× あっ、これはどうも
〇 どうぞ、おかまいなく
ポイント:茶菓を出して人を見て、「おかまいなく」の一言を
22. 不在者の代わりに用件を聞くとき
× わたくし山田が代わりにうかがいます
〇 よろしければ、わたくし山田がうかがいますが
ポイント:代わりに用件を聞くときは、「よろしければ」「お差し支えなければ」の前置きを
23. 辞去するとき
× それでは、これで
〇 それでは、ごめんくださいませ
ポイント:訪問時にも辞去にも使える「ごめんください」
24. 司会者としてあいさつするとき
× 今日はご参集いただき…
〇 本日はご参集いただき…
ポイント: あらたまった感じを出すには、和語を漢語に、訓読みを音読みに
25. お客を待たせるとき
× ちょっと、お待ちください
〇 少々、お待ちください
ポイント:お客に対して言うときは、「ちょっと」ではなく「少々」を
26. 祝いの席に駆けつけてくれた人に
× ほんとうにありがとうございます
〇 まことにありがとうごあいます
ポイント:かしこまった場では、「ほんとうに」ではなく、「まことに」を
27. 上司に名前を呼ばれたとき
× 何ですか
〇 はい
ポイント:呼ばれたら、用件を聞く前にまず「はい」と返事を
28. お客に席をすすめるとき
× こちらのソファーにかけてください
〇 こちらのソファーにおかけください
ポイント:「お~ください」と「~してください」の違いをしっかりと覚えよう
29. 取引先と新たな仕事がスタートするとき
× 今回もよろしく
〇 今回もお世話になります
ポイント:「お世話になります」は、よく使われるビジネス語
四、電話の敬語
1. 電話に出る
× もしもし、A商事でございます
〇 はい、A商事でございます
ポイント:第一声は「もしもし」でなく「はい」
2. 電話をかけて開口一番に
× 山田さんはいらっしゃいますか
〇 鈴木と申しますが、山田さんはいらっしゃいますか
ポイント:電話をかけたら、ま
3. 用件を切り出すとき
× 先日の新企画の件ですが…
〇 お忙しいところ恐れ入ります。先日の新企画の件ですが…
ポイント:用件に入る前に、相手の都合を聞く前置きを
4. 電話を取り次ぐとき
× はい
〇 はい、少々お待ちいただけますか
ポイント:取り次ぐときは、かけてきた相手を安心させる一言を忘れずに
5. 電話を同僚に取り次ぐとき
× 山田、電話
〇 山田さん、お電話です
ポイント:取り次ぐときにも敬語を忘れずに
6. 指名された人が休みであることを告げるとき
× 本日山田は、お休みをいただいております
〇 本日山田は、休ませていただいております
ポイント:「お休み」は自社の社員には使えない
7. 担当者がわからないとき
× 営業の人ならばだれでもかまいませんから…
〇 どなたか営業の方をお願いいたします
ポイント:「だれ」は「どなた」に置き換える
担当者がわからなければ、用件を伝える
8. 取り次ごうとした人が不在のとき
× ちょっと、見当らないんですが…
〇 ただ今、席をはずしております
ポイント:ビジネス電話で「見当らない」は禁句
不在の理由は不要。「席をはずしている」はどんな場合にも使える
9. 伝言を聞くとき
× よろしければ、ご用件を聞きますが…
〇 よろしければ、わたくし山田がご用件を承りますが…
ポイント:伝言を受けるときは自ら`名前
伝言は「承る」が決まり文句
10. 伝言依頼するとき
× 伝言してください
〇 恐れ入りますが、ご伝言をお願いします
ポイント:伝言を頼むときは「恐れ入りますが」などの配慮の一言を
11. コールバックを頼むとき
× 戻ったら電話するように伝えてください
〇 お電話くださいますよう、お伝えください
ポイント:コールバックを頼むときには丁重なことばづかいで
12. 不在者にコールバックさせるとき
× あとで山田に電話させます
〇 あとでお電話を差し上げるよう山田に申し伝えます
ポイント:別の人間にコールバックさせる場合でも、謙譲表現を
「伝えます」より敬意の高い「申し伝える」が望ましい
13. 電話が聞き取りにくいとき
× 恐れ入ります。お声が遠いのですが
〇 恐れ入ります。お電話が遠いのですが
ポイント:どんな原因にせよ、電話機のせいにすれば失礼にならない
15. 別の部署への電話を受けたとき
× こちらは総務部ですが
〇 営業部におつなぎしますので、少々お待ちください
ポイント:部署違いの電話にも、敬語を使って丁重に
担当部署に電話を回し、先方の用件を伝えておく
16. 面倒な用件で電話をかけたとき
× 先日の会議で出た件ですが
〇 今、お時間はよろしいでしょうか
ポイント:長くなりそうなときは、「今、よろしいでしょうか」の一言を忘れずに
17. お客に自社までの道順を説明するとき
× 左手の階段を下りると△△通りに…
〇 左手の階段をお降りになると△△通りに…
ポイント:道順を説明するときにも、敬語はおろそかにしない
18. 担当不在時に苦情電話を受けて
× 担当が席をはずしておりまして、わかりかねますが…
〇 担当が戻りましたら、すぐに調べさせて連絡させます
ポイント:苦情電話に「わかりかねます」は禁句
19. 取引先にミスの対応を求めるとき
× 今日中に何とかなりませんか
〇 お手数ですが、本日中に修正案をお持ちいただけるようにお願いします
ポイント:ミスをした相手への要望にも、「お手数ですが」の一言を忘れずに
20. 上司の家族からの電話を取り次ぐとき
× 課長、奥様からです
〇 課長、お電話です
ポイント:家族からの電話は、だれからとは言わずに取り次ぐ
21. 上司の家に電話したとき
× 佐藤と申しますが、課長いますか
〇 佐藤と申しますが、山田課長はいらっしゃいますか
ポイント:上司は仕事では身内扱いだが、会社を離れれば敬語を使う対象
22. 通話中に切れてかけなおしたとき
× 切れちゃいましたね
〇 失礼をいたしました
ポイント:途中で切れた場合は、かけたほうがかけなおし、「失礼をしました」の一言を
23. 来社予定の人から道順を聞かれたとき
× どちら様ですか
〇 今どちらにいらっしゃいますか
ポイント:道順をたずねる電話では、こちらからは質問しない
24. 相手の聞き違いを訂正するとき
× だから、石川です
〇 市川ではなく、石川県の石川です
ポイント:電話に「だから」などの乱暴な言い方は禁物
25. 再度の電話に不在を伝えるとき
× すぐに申し伝えます
〇 ただ今、来客中でございます。終わりしだい~
ポイント:ビジネス電話には、ときにはうそも必要
完