今回は形容詞を取り上げます。
「日本語はおもしろい」「おもしろい」や「コンピュータは便利だ」の「便利だ」のように物事の状態・様子を表す語を形容詞と言います。
形容詞は「頭が痛い」の「痛い」、「うれしい」「悲しい」のように感覚や感情を表すものもあります。
日本語の形容詞には「い形容詞」と「な形容詞」があります。
本来の日本語の形容詞は「い形容詞」で、漢語(元気、便利など)や外来語(モダン、ホットなど)などを起源にするものは「な形容詞」になります。「い形容詞」の特徴は、「大きい」「高い」「おいしい」など語末は「い」で終わることです。
「い形容詞」と「な形容詞」はいくつかの点で異なりますが、その一つは、「い形容詞」(例:高いです)の「です」と、「な形容詞」(例:元気です)の「です」の文法的な役割の違いです。
「い形容詞」文の「デジカメは高いです」は丁寧な言い方ですが、普通の言い方では「です」を削除して「デジカメは高い」になります。そして、否定形は「い」が「く」に変化して、「高くない」になります。丁寧な言い方は「高くないです」(「高くありません」という言い方もあります)です。
「い形容詞」では形容詞そのものが否定になったり、過去になったり、自ら活用します。丁寧文に表われる「です」は「い形容詞」の一部ではなく、単に丁寧さを添えることば(接尾辞と言います)でしかありません。
一方、「な形容詞」文の「私は元気です」は丁寧な言い方ですが、普通の言い方にすると「私は元気だ」となります。
そして、この「だ」が変化して、否定形では「元気じゃない」「元気ではない」になります。(丁寧形では「元気じゃありません」「元気ではありません」です。)
このように、「な形容詞」の「です」は、「い形容詞」の「です」と違って、「な形容詞」の一部(活用語尾)になります。したがって、「な形容詞」が否定形のとき、過去のときは次の表のように「です」が変化します。
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い形容詞 |
な形容詞 | ||
非過去 |
過去 |
非過去 |
過去 | |
普通 |
高い 高くない |
高かった 高くなかった |
元気だ 元気じゃ/ではない |
元気だった 元気じゃ/ではなかった |
丁寧 |
高いです 高くないです (高くありません) |
高かったです 高くなかったです (高くありませんでした) |
元気です 元気じゃ/ではありません 元気じゃ/ではないです |
元気でした 元気じゃ/ではありませんでした 元気じゃ/ではなかったです |
「いい」は例外で次のように変化します。
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い形容詞 | |
非過去 |
過去 | |
普通 |
いい よくない |
よかった よくなかった |
丁寧 |
いいです よくないです (よくありません) |
よかったです よくなかったです (よくありませんでした) |
形容詞の過去は学習者にとってはかなりむずかしい問題です。
私たち日本人は、過去のことを話すときに「い形容詞」なら「-かった」「-なかった」を付ければいい、何も難しいことはないと思いがちですが、形容詞そのものが活用することがまだ身に付いていない学習者には、簡単ではないようです。
動詞を用いて行為や動作を述べる場合は、いつ過去にするか(そのことが終わったか終わっていないか)はそれほど難しくありませんが、形容詞のように時間(テンス)とあまり関係のない状態について述べる場合は、ついテンス(ここでは「た」を付けること)を忘れがちになります。
もう一つの問題は、学習者の母語によっては、過去のことを述べるとき、過去を表す副詞(きのう、去年など)があれば、また、文脈上混乱がなければ、述語(動詞、形容詞)を過去にしない言語もあります。(中国やタイなどアジアの孤立語の言語に多く見られます。)そのような母語をもつ学習者は必要なときに過去にすることを忘れやすくなります。
以前、タイの学生を何人か夕食に招いたことがあります。夕食が終わって、帰りがけに一人の学生が私に向かって、「晩ご飯、おいしいです。」と言いました。
彼の感謝の気持ちはよくわかるのですが、「晩ご飯、おいしかったです。」と言ってほしいところでした。