15.「の(ん)だ」
私達は相手が何かしているのを見て、「○○さん、何をしていますか。」とも言うし、「○○さん、何をしているの(ん)ですか。」と言うこともあります。両文の違いは「の(ん)です」があるかないかです。
「の(ん)だ」(会話では「んだ」「んです」になりやすい)は日本人がよく使用するのに、外国人学習者がうまく使えない表現です。私達日本人はどんなときに「の(ん)だ」を使ったり、使わなかったりするのでしょうか。
「の(ん)だ」の基本的な意味は、「説明を与える」、疑問文では「説明を求める」ということです。
そして、「の(ん)だ」で重要なことは、文脈、状況と結びついて使われることです。
次の2文はいつ使うか考えてみましょう。
(1) 雨が降っている。
(2) 雨が降っているんだ。
(1)は、たとえば、外を見て単に「雨が降っている」という事態を述べているだけです。一方、(2)は、人が傘をさしているとか、ぬれた傘を持って部屋に入ってきたなどという、状況があって、それを見て(それを知って)「雨が降っている」という事情を説明する(ここでは納得する)言い方です。
疑問文についても同じことが言えます。
(3)その本はおもしろいですか。
(4)その本はおもしろいんですか。
(3)は単にその本がおもしろいかどうかを尋ねています。しかし(4)は、相手が夢中で読んでいるとか、いつも持ち歩いているという状況を見て、それなら「おもしろいのか」と説明を求めたり、確認をしたりする言い方です。
「の(ん)だ」は次のような形で使われることが多いです。
1. 説明
例:道が込んでいる。きっと事故があったのだ。(前文が事態、後文がその説明)
2. 主張
例:それでも地球は丸いのだ。
3. 言い換え
例:彼女は人のものを何でもほしがる。要するに彼女は子供なのだ。
4. 帰結
例:変な男がうろうろしていた。だから犬がほえたのだ。
1~4の他に、次のように命令を表すこともあります。
5. 命令
例:さっさと寝るんだ。
疑問文では、ある前提・状況があって、「説明を求める」「確認をする」というのが本来の用法ですが、「問いただし」や「とがめ」の意味になることもあります。
(5)こんな時間にどこへ行くんですか。
(6)まだあの女に会うんですか。
「の(ん)だ」の接続を次に示します。
動詞 |
い形容詞 |
な形容詞/名詞+だ |
行く 行かない +の(ん)だ 行った 行かなかった |
痛い 痛くない +の(ん)だ 痛かった 痛くなかった |
~な ~じゃない +の(ん)だ ~だった ~じゃなかった |
「の(ん)だ」に「主張」の意味合いがあるためか、学習者の中には、主張したい、強調したいと言って、「の(ん)だ」をやたらに使う人がいます。韓国の方もその傾向にあるようです。「の(ん)だ」が多いと、主張が強すぎて、読み手は読む意欲をなくしてしまいます。そういう傾向がある学習者には、一度、「の(ん)だ」を使わないでレポートなり文章なりを書かせてみてください。
そして、そのあとで、ここには「の(ん)だ」を入れたほうがいい、ここはよくないというように、説明しながら指導してください。
学習者にとっては自分の書いた文章なので、真剣に聞いてくること請け合いです。
「の(ん)だ」は述語(動詞・形容詞)の普通形(「名詞+だ」は「名詞+な」)に接続するので、普通形を習ったあとでしか導入できないと考えられてきました。しかし、日常的には「・・んですか」は頻繁に用いられるため、その導入を早めるという傾向が見られるようになりました。早める方法として、普通形はまだ習っていなくても、「聞き取り」練習でどんどん自然な「んです」「んですか」の入った会話を聞かせるという方法もあります。また教科書によっては、普通形の導入を早め、導入と同時に「の(ん)だ」を入れているものもあります。
学習者は外で「の(ん)だ」をよく聞くせいか、使えるほどにはなりませんが、あまり抵抗なく「普通形+の(ん)です」を学習するようです。
ただし、はじめに述べたように、使いすぎや使い方によって、「の(ん)だ」が押し付けがましい、攻撃的な、また、詰問調の印象を与えてしまうので、注意をさせてください。