16.「可能形」
今回は「漢字が読める」「一人で行ける」のような可能形を使った文(可能文)文を勉強します。
可能文のポイントは3つあります。
一つは可能形そのものの活用形の問題、2つ目は可能文における助詞の問題、3つ目は可能文の意味用法の問題です。
まず、可能形の活用から見ていきましょう。
すべての動詞が可能形になるのではありません。可能形にできるのは「食べる」「行く」「勉強する」などの意志動詞だけです。(「あく」「しまる」「つく」「消える」などの無意志動詞は可能形にできません。)
可能形はⅠグループ動詞が「行け」「飲め」などの命令形、「行けば」「飲めば」の「ば形」と似ています。また、Ⅱグループ動詞、Ⅲグループ動詞が受身形、尊敬の形と同じです。学習者の活用形の混乱が見られ始めるのが、可能形あたりからです。
Ⅰグループ動詞 |
Ⅱグループ動詞 |
Ⅲグループ動詞 |
行く ikeru 行ける |
食べるtaberareru 食べられる |
くる korareru こられる |
飲む nomeru飲める |
いる irareru いられる |
する suru できる |
遊ぶ asoberu遊べる |
| |
帰る kaereru帰れる | ||
会う aeru 会える | ||
話すhanaseru話せる |
「する」の可能形は「できる」です。したがって、「理解する」の可能形は「理解できる」になります。学習者はcan understandのつもりで、「わかる」を「わかれる」や「わかられる」と可能形にしようとしますが、「わかる」自体の可能形はありません。
可能文に関わる助詞の問題は2つあります。1つは「できる」目的(対象)に「が」をとるか「を」をとるかということです。
(1)私はドイツ語が/を話せる。
可能形は基本的には「漢字が書ける」「英語の新聞が読める」のように「が」をとりますが、「が」をとるか「を」をとるかはゆれている部分もあり、新聞などでも「を」を使っているのを見受けることがあります。
「食べる」「飲む」「書く」など日常生活の動詞は「を」より「が」の使用が好まれるようです。
「が」より「を」が使われやすいのは次のような場合です。
1)主語か対象か混乱が起きる場合
(2)?彼は息子が引き止められない。
2)他動性の動詞、また、それ自体が長い音節をもつ動詞
(3)?あの柵にこの犬が結び付けられない。
3)従属節(連体修飾節、副詞節など)の中
(4)好きな字を書き込める装置を開発した。(新聞記事より)
(5)節約をできる階層は限られている。(〃)
可能形に関わる、もう1つの助詞の問題は「できる」主体に「に」をとれるのはどんな場合かということです。
(6)?私にドイツ語が話せます。
(7)○私にはこれ以上話せない。
(8)あの人にできるのに、どうしてあなたにできないの?
(6)の文は不自然ですが、(7)のような否定の文、(8)のような他者との比較の文では「に」が現れることがあります。(6)(7)に共通して言えることは、対比的な意味合い(否定文もそうです)のときには「に」が付くことが多いです。。
可能形は大きく「能力可能」と「状況可能」の2つに分けられます。
(9)私は漢字が書ける。(能力)
(10)手術中は中に入れません。(状況1)
(11)この水はくさくて飲めない。(状況2)
「能力可能」は主体にとってそのことができる能力があるかどうかを表します。一方、「状況可能」は(10)のように状況が許可されるか否かの可能性(状況1)、また(11)のように対象物が持っている状態・性質によってその可能性が関わる場合(状況2)です。
学習者の母国語には、「能力可能」と「状況可能」を違う表現を使う国語もあるので、日本語の可能表現の特徴は説明しておく必要があります。
可能形は自動詞、自発動詞、「許可表現」などと絡んできます。
(12)プラスチックのコップは落としても割れない。
(13)ピアノを移動したいが、重くて動かない。
「割れる」「動く」は自動詞(他動詞は「割る」「動かす」)ですが、学習者は可能形にしたがり、「割られない」「動けない」などとしてしまいます。
可能形と同じ形をもつ自動詞には次のようなものがあります。
他動詞 可能形・自動詞
皿を割る 皿が割れる
棒を折る 棒が折れる
紙を破る 紙が破れる
米をとる 米がとれる
本を売る 本が売れる
可能形と同時に提出される項目に「見える・聞こえる」があります。厳密には自発動詞と呼ばれるものですが、可能表現と重なる部分もあるので、可能形のところで提出されているようです。
したがって、「見える・聞こえる」に関しては、「見られる・聞ける」という可能形との意味・用法の違い問題になります。
(14)ここからアルプスが見える
(15)笠間美術館へ行くと、ルノワールの全作品が見られる。
(16)車の音が聞こえる。
(17)千円も出せば、一流のオペラが聞ける。
「見える・聞こえる」は自発動詞なので、(14)(16)のように「自然と目の中に入ってくる」「自然と耳に入ってくる」という意味になります。一方、「わざわざ行く」とか「お金を出す」などの人間の意志と手間が入ると、(15)(17)のように「見られる」「聞ける」が使われます。
可能形「書ける」「行ける」は、多くの場合「書くことができる」「「行くことができる」と言い換えることができます。では、可能形と「~ことができる」は同じ意味・用法を持つのでしょうか。また、使い分けがあるのでしょうか。
結論から言えば、可能形と「ことができる」は意味・用法は同じ場合が多いです。
両者の特徴をまとめると、次のようになります。
【可能形】
ⅰ 話しことばによく使われる。
ⅱ「飲む・食べる・買う」などの日常生活に頻出する動詞に使われやすい。
【ことができる】
ⅰ 書きことば的である。
ⅱ 論理的な動詞(「述べる」「まとめる」など)に使われやすい。
ⅲ 2グループ動詞(一段動詞)では、可能形と受身形が同じ形なので、混同
を防ぐために「ことができる」が使われることがある。
iv 他動詞や動詞の使役形で「せる」で終わる動詞に使われやすい。
早く済ませられる←→早く済ませることができる