40.「~と思う」
●引用節について
人の言ったこと、思ったことなどを文に取り込むことを引用と言います。
そして、取り込まれた部分を引用節と言います。
引用節の代表的なものは「~と言う」(例:田中さんは明日来ると言った。)と、「~と思う」(例:田中さんは明日来ると思う。)です。前者は思考内容を、後者は発言内容を格助詞「と」を用いて、文の中に取り込みます。
●「~と思う」
ここでは引用節のうち、「~と思う」について取り上げます。
「~と思う」は話し手の意志や願望を表す場合(「~(よ)う/たい+と思う」で表す)と、話し手の判断・断定(意見・考え)を聞き手に伝える場合(「判断+と思う」で表す)があります。
1)「~(よ)う/たい+と思う」
(1)医者になりたいと思う。
(2)来年帰国しようと思います。
(1)(2)のように、「と思う」が願望の「たい」、意志の「(し)よう」と結び付いて、話し手の気持ちを聞き手に伝えています。ここでは「~と思う」は、実質的な(英語のI think that~のような)意味は持たず、話し手の気持ちを表すムード(モダリティ)性を加えるために付加されているだけと考えられます。
2)判断+と思う
(3)~(5)のように、話し手の判断・断定(意見・考え)を聞き手に伝えるものです。「~と思う」の前には、動詞文、形容詞文、名詞文などの普通形が来ます。
(3)日本は物価が高いと思います。
(4)今晩雪が降ると思う。
(5)彼が犯人だと思う。
自分の判断をやわらげて伝えるために、「~と思う」の前に「だろう」「ん
じゃないか」「かな」などのムード(モダリティ)表現が付くことが多いです。
(6)日本は物価が高いんじゃないかと思います。
(7)今晩雪が降るだろうと思う。
●「~と思う」と「~と思っている」
「~と思う」には、「結婚しようと思う」「結婚しようと思っている」のように、
「~と思う」を使う場合と「~と思っている」を使う場合があります。
両者には使い分けのルールがあるのでしょうか。
「~と思う」「~と思っている」の使い分けを考えるために、「~(よ)う/たい+
と思う」か「判断文+と思う」に分けて考えます。また、「~と思う」の主体がだれかを、話し手(私)の場合と、第3者(聞き手(あなた)も含む)の場合について考えます。
1)「~(よ)う/たい+と思う」
「~(よ)う/たい+と思う」の文では、「思う」主体は話し手自身に限られ、
「~と思う」「~と思っている」どちらを使っても意味はあまり変わりません。
(8)(私は)海外旅行に行こうと思う。
(9)(私は)海外旅行に行こうと思っている。
一方、思考の主体が第3者の場合は、(11)のように「~と思っている」は
適切ですが、(10)のように「~と思う」を使うと不自然になります。
(10)?(彼は)海外旅行に行こうと思う。
(11) (彼は)海外旅行に行こうと思っている。
2)「判断+と思う」
「判断+と思う」では、思考の主体が第3者の場合、(13)のように、「~と
思っている」は適切ですが、(12)のように「~と思う」は不自然になります。
(12)?(彼は)日本語はやさしいと思う。
(13) (彼は)日本語はやさしいと思っている。
では、思考の主体が話し手自身(私)の場合はどうでしょうか。
(14) (私は)日本語はやさしいと思う。
(15)?(私は)日本語はやさしいと思っている。
「私」の場合は、(14)のように「~と思う」は適切ですが、(15)のように
「~と思っている」は、やや不自然に感じられます。しかし、(16)(17)の
ように、話し手の強い主張やこだわりがあったときは、「~と思っている」は
不適切でなくなります。
(16) (あなたは反対するかもしれないが、)私は日本語はやさしいと思っている。
(17) (みんなは呑気だけれど、)私は将来何が起こるかわからないと思っている。
(16)(17)は話し手の主張を表していますが、(16)(17)のように、「私は」があった
ほうが自然な場合が多いようです。
「私は」とともに「と思っている」が使われやすいと言えるでしょう。
以上をまとめると次のようになります。
思う | 思っている | ||
~(よ)う ~たい | 私 | ○ | ○ |
第3者 | ? | ○ | |
判断 | 私 | ○ | △(主張・こだわり) |
第3者 | ? | ○ | |
以上から言えることは、「~と思う/思います」は話し手(私)にしか使えないこと、また、第3者は「~と思っている/思っています」しか使えないということです。 これは逆の方向から考えると、「~と思う/思います」の思考主体は常に話し手「私」ということになります。 そのために、会話などではわかりきっているために、「私は」が省略されやすくなります。 |