41.「~と言う」
41.「~と言う」
●「~と言う」
ここではだれかがだれかに(ひとり言の場合もありますが)何かを伝える用法のうち、
引用「~と言う」を取り上げます。「~と言う」の「と」は引用を表す格助詞です。
「~と言う」には、ある人が言ったことばをそのまま伝える直接話法と、ある人が言ったことばを話し手が言い直して伝える間接話法があります。
(1)リーさんは「今日は休みます」と言った/言いました。(直接話法)
(2)リーさんは今日は休むと言った/言いました。(間接話法)
1)直接話法
直接話法は、言った通りを繰り返すことによってその人の発言を再現する働きを持ち
ます。
また、「と言う」の前は、言った通りを再現するいろいろな形が来ます。
(3) 田中さんは「今行きます/頭が痛いです。」と言いました。
(4) 社長が「すぐ来てください。」と言った。
2)間接話法
間接話法は、言ったことばを話し手が言い直して伝えるため、「と言う」の前は普通体が来ます。
(5)田中さんは今行く/頭が痛いと言いました。
(4)のように、伝える内容が依頼や命令の場合の間接話法は次のように、命令形を使うか、「と」の代わりに「ように」が使われることが多いです。
(6)社長にすぐ来いと言われた。
(7)社長にすぐ来るように言われた。
●「~と言った」「~と言っている」「~と言っていた」
「~と言う」は実際の文では、状況に応じて、「~と言った」「~と言っている」「~と言っていた」と変化します。
(8)小川さんは今晩来ないと言った。
(9)小川さんは今晩来ないと言っている。
(10) 小川さんは今晩来ないと言っていた。
「~と言った」「~と言っている」「~と言っていた」はどのように使い分けられるのでしょうか。3つの意味用法について考えてみましょう。
1)「~と言った」
(8)の「言った」は、小川さんの「今晩来ない」という発言・発話を事実として聞き手にそのまま伝えているだけです。基本的には相手(聞き手)に対する働きかけはないと考えられます。
2)「~と言っている」
「~と言っている」は「聞き手への働きかけ」「発言の一定期間の継続」「客観性・第3者の発話」の、3つの働きがあります。
a.「聞き手への働きかけ」
(9)「 小川さんは今晩来ないと言っている。」の「言っている」は、小川さんの「今晩来ない」という発言・発話を聞き手に伝えていますが、「~ている」を使って、発言内容を現在と密接に結び付くものとして提示しています。
現在との結び付きが強いということは、多くの場合、「(小川さんが今晩来ない)と言っているんですが、どうしますか」、また「(小川さんが今晩来ない)と言っているんですが、対応してください」と聞き手に働きかけや行為の実現を示唆する働きを持っています。
このときには、発言者(「~と言っている」の主体)は助詞「が」をとることが多くなります。
(9)’小川さんが今晩来ないと言っている。
b.「発言の一定期間の継続」
「~ている」が継続動作・状態を表すために、「 (9) 小川さんは今晩来ないと言っている。」は、小川さんがある一定期間「今晩来ない」ことを言い続けているとも解釈できます。
(9) ‘’小川さんは今晩来ないと(ずっと)言っている。
c.「客観性・第3者の発話」
「~と言った」の主体は話し手自身の「私」であることが多いですが、「~と言っている」は第3者が発言の主体になることが多いです。
次の文は学習者が作った文ですが、子供っぽく感じられます。「~と言った」を「~と言っている」としたほうが第3者の伝言を客観的に伝えています。
(11) 先生が事務室に来てくださいと言いました。
↓
先生が事務室に来てくださいと言っています。
このように、発言の主体が第3者の場合は、「~と言っている」を使ったほうが、自然になります。
3)「~と言っていた」
「~と言っていた」も「~と言っている」と同じく、「聞き手への働きかけ」「発言の
一定期間の継続」「客観性・第3者の発話」の特徴を持っています。しかし、「聞き手への働きかけ」は「~と言っていた」は、「言った」のが今ではなく過去であるため、現在との結び付きが弱くなり、聞き手への問いかけや働きかけ・示唆の程度がやや弱くなります。
「発言の一定期間の継続」については、過去のある時点に一定期間続けてそう言っていたと解釈することができます。また、「客観性・第3者の発話」についても「~と言っている」と同じように考えられます。
次の (12)も相手に小林さんのメッセージを伝えていますが、「~と言った」では子供っぽく感じられます。「~と言っていた」としたほうが第3者の過去のある時点での発話内容を客観的に伝えられます。
(12) 小林さんがどうぞよろしくと言いました。
↓
小林さんがどうぞよろしくと言っていました。
● 発言者「私」の省略
「~と言う」という引用文では発言者が話し手自身(私)で、特に「私」を強調する必要のない場合は、「私」が省略されることが普通です。そうなると外国人学習者はだれが言った
のかがわからなくなり、思い違いをしていることがしばしばあります。
次の(13)(14)はだれが言ったり、言われたりしたかわかりますか。
(13) 行かないと言ったのに、次の日にどうして来なかったのかと言われた。
(14) 明日カメラを持ってくるように言ったので、持って来るでしょう。
日本語では発話者が「私」のばあい、通常「私」は省略されること、反対に発話者が第3者の場合は混乱を避けるために省略されにくくなります。学習者には、「私」の省略された文をたくさん見せて、人関係を正しくつかませてください。