50.「~し」
「~し」は1つ、または2つ以上で用いられ、「並列(listing=並べること)」を表します。普通体の中でも、丁寧体の中でも使うことができます。
(1)熱があるし、頭が痛い。
(2)熱がありますし、頭が痛いです。
また、(3)のように、主節末が丁寧体であれば、「し」の前が普通体でも文全体は丁寧体を表します。
(3)熱があるし、頭が痛いです。
「~し」の文では、並列された語が「も」をとるほうが自然な場合が多いです。「も」は(1)’のように、1つだけつく場合と、(2)’のように複数つく場合があります。
(1)’ 熱があるし、頭も痛い。
(2)’ 熱もありますし、頭も痛いです。
また、(4)のように、「~し」を用いて「理由」、特に「ゆるやかな理由」を表すことも多いです。
(4) 雨も降っているし、風も吹いているし、今日は行きたくない。
●「並列 (listing)」
動作や事柄を並べる用法ですが、同じカテゴリー(範疇)のものを並べる必要があります。
(5)あの選手は足も速いし、力も強い。
(6)今の仕事は忙しいし、それに給料も安い。
(7)この階段は古いし、危ないから、取り壊したほうがいい。
(5)は選手としての能力を、(6)は職場での雑用仕事を並べています。また、(7)は階段を取りこわす理由を「し」でつないでいます。
●「ゆるやかな理由」
(8)アメリカもフランスも行ったし、今度はカナダへ行きたい。
(9)この仕事はおもしろいし、ずっと続けていこう。
「~し」は後文に対する理由を表します。「から」や「ので」が直接的に理由付けをしているのに比べると、理由付けがゆるやかで、ぼかした感じになります。その分、会話的で遠まわしな感じを表します。主節の文末には(8)(9)のように、意志表現をとることができます。
「~し」「~たり」が使えるようになるかどうかが、初級レベルと中級レベルの違いだと言われることがあります。つまり、「~し」「~たり」などが使えるようになると、中級レベルに入ったと考えられるということです。
それはどういうことでしょうか。
「~し」「~たり」は、言い方を少し曖昧に、ゆるやかにした表現です。
(10)a.忙しくて、ちょっと用事があるので、会には参加できません。
b.忙しいし、ちょっと用事があるし、会には参加できません。
(11)a.見舞いに行って、買物に行って、とても忙しかったんです。
b.見舞いに行ったり、買物に行ったりして、とても忙しかったんです。
(10)(11)のaとbを比べたとき、aよりもbのほうがやわらかい言い方に感じられます。
これは「~し」「~たり」を使って曖昧に、ゆるやかに表現しているからです。
ムード(モダリティ)のところで説明したように、文は「コト」的な部分と「ムード(
モダリティ)」的な部分から成り立っています。前者は事柄を、後者は話し手の気持ちを表します。
日本語には「~て」「~し」「~たり」などの並列表現がありますが、「~し」「~たり」は話し手の気持ちの入った、その点ではムード(モダリティ)の性質を持った並列表現と言えます。
学習者は「コト」的なものから「ムード(モダリティ)」的なものへと習得していきます。特にムード(モダリティ)の部分は習得が難しく時間がかかると言われています。
「~し」「~たり」が使えるようになったら、中級段階に入ったと言われるのも、ムード(モダリティ)表現が習得でき始めたということを表しているのだと考えられます