>> あ行
◆阿部一族 ~森鴎外
九州熊本の藩主・細川忠利の病死に際し、恩を受けた18人の藩士が殉死する。しかし、当然殉死するはずの阿部弥一右衛門だけは殉死の許可を得ることができず、生き残って新しい藩主に奉公している。しかし、周囲の武士たちからの露骨な批判に堪えきれず、自分の死後、自分の行動や残されたものへの非難を覚悟の上で弥一右衛門は追腹を切る。長男・権兵衛は禄高を減らされ侮蔑を受けたので、忠利の一周忌のとき、まげを切って武士を捨てる覚悟を見せた。藩主はその無礼を怒って彼を縛り首にしてしまう。安部一族は武士の意地をかけて権兵衛の屋敷にたてこもり反抗するが、討っ手によって全滅させられる。
◆暗夜行路 ~志賀直哉
主人公・時任謙作は、祖父と母のあやまちによって自分が生まれたことを知り打ちのめされる。やがてそれを克服し、直子という女性と幸福な結婚をする。しかし、彼が旅行中の妻と従兄との過失を知り、それを許そうとしながら許すことができずに苦しみ、鳥取県の大山(だいせん)に向かう。そこで一夏を過ごすうちに自然と調和する広い心境に達し、謙作の急病の枕もとに駆けつけた直子を許す。直子もまた、夫にどこまでも従おうと心に期する。
◆伊豆の踊り子 ~川端康成
伊豆の旅に出た一高生の私は、天城峠で出会った踊り子の清純な姿にひかれ、その旅芸人の一行と下田まで道づれとなる。瞳の美しい薫(かおる)という名の踊り子は14歳、おとなびて見えるため、私は踊り子の今夜が汚れてしまうのではないかと、眠れぬ夜を過ごす。しかし、翌朝、湯から裸で飛び出して手を振る踊り子の子供っぽさに、私は心に清水を感じて微笑する。孤児根性で歪んだ私も、踊り子に「いい人ね」と言われて、心が澄み渡る。旅費の尽きた私は、下田で踊り子と別れて船に乗り、別離の感傷に浸りぽろぽろと涙をこぼす。
◆浮 雲 ~二葉亭四迷
母一人子一人の内海文三は、静岡から上京して某学校を優秀な成績で卒業、叔母のお政の家に寄寓して官員生活に入る。しかし文三は自意識に行動をはばまれる性格で、同僚の軽薄な才子本田昇が昇級するのと対照的に、人員整理で失職してしまう。お政にはお勢という娘がいて、文三に好意をよせ文三を弁護してくれたが、しだいに本田へ傾斜していくのを不安と焦燥で見守る。そして、文三は叔母の家のなかで孤立していく。
◆恩讐の彼方に ~菊池寛
若侍・市九郎は、旗本である主人の愛妾お弓と通じ、それを知った主人に斬りつけられ、反対に主殺しの大罪を犯してしまう。市九郎とお弓は逐電し、強盗や人殺しなどの悪事を重ねる。しかし、あるとき、市九郎はお弓のあまりの強欲さに嫌気がさし、身一つで逃げ去る。美濃の浄願寺に駆け込んだ市九郎は、ひたすら仏道修行をし、名も了海と改める。得道した彼は、諸国遍歴のおり、九州耶馬溪の難所を見て、この200間あまりの絶壁をくりぬいて道を通じようと発願、人々に寄進を求めるが誰も耳を傾けず、彼は独力でこの大業にあたろうと決心した。里人の嘲りにも動ぜず、19年間、洞門をうがちつづけた。一方、父の仇を捜して8年、主人の遺児がようやくこの地にたどり着く。了海に援助を始めていた里人たちは、仇討ちはせめて貫通の後でと押しとどめ、二人が並んでのみをふるうこと1年半、ついに洞門は貫通、二人はすべてを忘れ手を取りあって涙にむせんだ。
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