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楼主: uin61

[其他翻译] 日本語小説「怪人二十面相」

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 楼主| 发表于 2009-5-22 09:47:39 | 显示全部楼层
相手は取り合わないで、明智を抱えて、ぐんぐん家の中へ入って行きます。自然赤井もあとに従わぬわけにはいきません。
玄関の間には、また一人の屈強な男が、肩をいからして立ちはだかっていましたが、一同を見ると、ニコニコしてうなずいてみせました。
ふすまを開いて、廊下へ出て、一番奥まった部屋へたどり着きましたが、妙な事に、そこはガランとした十畳の空部屋で、首領の姿はどこにも見えません。
乞食が何か、あごをしゃくって指図をしますと、美しい女の部下が、ツカツカと床の間に近寄り、床柱の裏に手をかけて、何かしました。
すると、どうでしょう。ガタンと、重々しい音がしたかと思うと、座敷の真ん中の畳が一枚、スーッと下へ落ちていって、あとに長方形の真っ暗な穴があいたではありませんか。
「さあ、ここの梯子段を降りるんだ。」
言われて、穴の中を覗きますと、いかにも立派な木の階段がついています。
ああ、なんという用心深さでしょう。表門の関所、玄関の関所、その二つを通り越しても、この畳のがんどう返しを知らぬものには、首領がどこにいるのやら、まったく見当もつかないわけです。
「何をぼんやりしているんだ。早く降りるんだよ。」
明智の体を三人がかりで抱えながら、一同が階段を降りきると、頭の上で、ギーッと音がして畳の穴はもとのとおり蓋をされてしまいました。実にゆきとどいた機械じかけではありませんか。
地下室におりても、まだそこが首領の部屋ではありません。薄暗い電燈の光を頼りに、コンクリートの廊下を少し行くと、頑丈な鉄の扉が行く手を遮っているのです。
乞食に化けた男が、その扉を、妙な調子でトントントン、トントンと叩きました。すると、重い鉄の扉が内部から開かれて、パッと目を射る電燈の光、まずゆいばかりに飾り付けられた立派な洋室、その正面の大きな安楽イスに腰掛けて、ニコニコ笑っている三十歳ほどの洋服紳士が、二十面相その人でありました。これが素顔かどうかは分かりませんけれど、頭の毛をきれいに縮らせた、ひげのない好男子です。
「よくやった。よくやった。君たちの働きは忘れないよ。」
首領は、大敵明智小五郎を虜にしたことが、もう、嬉しくてたまらない様子です。無理もありません。明智さえ、こうして閉じ込めてしまえば、日本中に恐ろしい相手は一人もいなくなるわけですからね。
かわいそうな明智探偵は、ぐるぐる巻きに縛られたまま、そこの床の上に転がされました。赤井寅三は、転がしただけでは足りないと見えて、気を失っている明智の頭を、足で二度も三度も蹴飛ばしさえしました。
「ああ、君は、よくよくそいつに恨みがあるんだね。それでこそ僕の見方だ。だが、もうよしたまえ。敵はいたわるものだ、それに、この男は日本にたった一人しかいない名探偵なんだからね。そんなに乱暴にしないで、縄を解いて、そちらの長いすに寝かしてやりたまえ。」
さすがに首領二十面相は、虜をあつかうすべを知っていました。
そこで、部下たちは、命じられたとおり、縄を解いて、明智探偵を長いすに寝かせましたが、まだ薬が覚めぬのか、探偵はグッタリしたまま、正体もありません。
乞食に化けた男は、明智探偵誘拐のしだいと、赤井寅三を見方に引き入れた理由を、詳しく報告しました。
「ウン、よくやった。赤井君は、なかなか役に立ちそうな人物だ。それに、明智に深い恨みを持っているのが何より気にいったよ。」
二十面相は、名探偵を虜にした嬉しさに、何もかも上きげんです。
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发表于 2009-5-30 11:57:00 | 显示全部楼层
復帰しちゃった~~頑張ってくださいね~~~
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 楼主| 发表于 2009-6-5 10:02:44 | 显示全部楼层
そこで赤井は改めて、弟子入りの厳かな誓いを立てさせられましたが、それが済むと、この浮浪人は最前から、不思議でたまらなかったことを、さっそく訪ねたものです。
「このうちのしかけには驚きましたぜ。これなら警察さんか怖くないはずですねえ。だが、どうもまだふにおちねえことがある。さっき玄関へ来たばっかりの時に、どうして、おかしらにあっしの姿が見えたんですかい。」
「ハハハ・・・・・・、それかい。それはね。ほら、ここを覗いて見たまえ。」
首領は天井の一隅から下がっているスィーブの煙突みたいな物を指差しました。
覗いて見よと言われるものですから、赤井はそこへ行って、煙突の下の端が鍵の手に曲がっている筒口へ、目を当てて見ました。
すると、これはどうでしょう。その筒の中に、この家の玄関から門にかけての景色が、可愛らしく縮小されて写っているではありませんか。最前の門番の男が、忠実に門の内側に立っているのもはっきり見えます。
「潜水艦に使う潜望鏡と同じしかけなんだよ。あれよりも、もっと複雑に折れ曲がっているけれどね。」
どうりで、あんなに光の強い電燈が必要だったのです。
「だが、君が今まで見たのは、この家の機会じかけの半分にも足りないのだよ。その中には、僕のほかは誰も知らないしかけもある。なにしろ、これが僕の本当の根城だからね。ここのほかにも、いくつかの隠れ家があるけれど、それらは、敵を欺く本の仮住まいに過ぎないのさ。」
すると、いつか小林少年が苦しめられた戸山ヶ原のあばら屋も、その仮の隠れ家の一軒だったのでしょうか。
「いずれ君にも見せるがね、この奥に僕の美術室があるんだよ。」
二十面相は、相変わらず上きげんで、しゃべりすぎるほどしゃべるのです。見れば彼の安楽イスの後ろに、大銀行の金庫のような、複雑な機械じかけの大きな鉄の扉が、厳重に締め切ってあります。
「この奥にいくつも部屋があるんだよ。ハハハ・・・・・・、驚いているね。この地下室は、地面に立っている家よりもずっと広いのさ。そして、その部屋部屋に、僕の生涯の戦利品が、ちゃんと分類して陳列してあるってわけだよ。そのうち見せてあげるよ。
まだ何も陳列していない、空っぽの部屋もある。そこへはね、ごく近日どっさり国宝が入ることになっているんだ。君も新聞で読んでいるだろう。例の国立博物館のたくさんの宝物さ。ハハハ・・・・・・。」
もう明智という大敵を除いてしまったのだから、それらの美術品は手に入れたも同然だとばかり、二十面相はさも心地よげに、カラカラとうち笑うのでした。
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发表于 2009-6-7 00:02:28 | 显示全部楼层
看看,谢谢楼主翻译!!!
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 楼主| 发表于 2009-6-9 09:59:42 | 显示全部楼层
                          少年探偵団
翌朝になっても明智探偵が帰宅しないものですから、留守宅は大騒ぎになりました。
探偵が同伴して出かけた、事件依頼者の婦人の住所がひかえてありましたので、そこを調べますと、そんな婦人なんか住んでいないことが分かりました。さては二十面相の仕業であったかと、人々は、始めてそこへ気がついたのです。
各新聞の夕刊は、「名探偵明智小五郎氏誘拐さる」という大見出しで、明智の写真を大きくいれて、その椿事をデカデカと書きたて、ラジオもこれを詳しく報道しました。
「ああ、たのみに思うわれらの名探偵は、賊の虜になった。博物館が危ない。」
一千万の都民は、わが事のように悔しがり、そこでもここでも、人さえ集まれば、もう、この事件の噂ばかり、全都の空が、なんとも言えない陰鬱な、不安の黒雲に覆われたように、感じないではいられませんでした。
しかし、名探偵の誘拐を、世界中で一番残念に思ったのは、探偵の少年助手小林芳雄君でした。
一晩待ち明かして朝になっても、また、一日虚しく待って、先生はお帰りになりません。警察では二十面相に誘拐されたのだと言いますし、新聞やラジオまでそのとおりに報道するものですから、先生の身の上が心配なばかりでなく、名探偵の名誉のために、悔しくって、悔しくって、たまらないのです。
そのうえ、小林君は自分の心配のほかに、先生の奥さんを慰めなければなりませんでした。さすが明智探偵の夫人ほどあって、涙を見せるような事はなさいませんでしたが、不安にたえぬ青ざめた顔に、わざと笑顔を作っていらっしゃる様子を見ますと、お気の毒で、じっとしていられないのです。
「奥さん大丈夫ですよ。先生が賊の虜なんかになるもんですか。きっと先生には、僕たちの知らない、何か深い計略があるのですよ。それでこんなにお帰りが遅れるんですよ。」
小林君は、そんなふうに言って、しきりと明智夫人を慰めましたが、しかし、べつに自身があるわけではなく、しゃべっているうちに、自分のほうでも不安が込み上げてきて、言葉もとぎれがちになるのでした。
名探偵助手の小林君も、今度ばかりは、手も足も出ないのです。二十面相の隠れ家を知る手がかりはまったくありません。
おとといは、賊の部下が紙芝居屋に化けて、様子を探りに来ていたが、もしや今日も怪しい人物が、その辺をうろうろしていないかしら。そうすれば、賊の住家を探る手だてもあるんだがと、一縷の望みに、たびたび二階へあがって表通りを見回しても、それらしい者の影さえしません。
賊の方では、誘拐の目的を果たしてしまったのですから、もうそういうことをする必要がないのでしょう。
そんなふうにして、不安の第二夜も明けて、三日目の朝のことでした。
その日はちょうど日曜日だったのですが、明智夫人と小林少年が、寂しい朝食を終わったところへ、玄関へ鉄砲玉のように飛び込んできた少年がありました。
「ごめんください。小林君いますか。ぼく羽柴です。」
透き通った子供の叫び声に、驚いて出て見ますと、おお、そこには、久しぶりの羽柴壮二少年が、可愛らしい顔を真っ赤に上気させて、息を切らして立っていました。よっぽど大急ぎで走ってきたものと見えます。
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 楼主| 发表于 2009-6-10 10:09:03 | 显示全部楼层
読者諸君はよもやお忘れではありますまい。この少年こそ、いつか自宅の庭園にわなを仕掛けて、二十面相を手ひどい目にあわせた、あの大実業家羽柴壮太郎氏の息子さんです。
「オヤ、壮二君ですか。よく来ましたね。さあ、お上がりなさい。」
小林君は自分より二つばかり年下の壮二君を、弟かなんぞのようにいたわって、応接室へ導きました。
「で、なんか急な用事でもあるんですか。」
訪ねますと、壮二少年は、大人のような口調で、こんな事を言うのでした。
「明智先生、大変でしたね。まだ行方が分からないのでしょう。それについてね、僕少し相談があるんです。
あのね、いつかの事件の時から、僕、君を崇拝しちゃったんです。そしてね、僕も君のようになりたいと思ったんです。それから、君の働きの事を、学校でみんなに話したら、僕と同じ考えのものが十人も集まっちゃんです。
それで、みんなで、少年探偵団っていう会を作っているんです。無論学校の勉強やなんかの邪魔にならないようにですよ。僕のお父さんも、学校さえ怠けなければ、まあいいって許してくだすったんです。
今日は日曜でしょう。だもんだから、僕みんなを連れて、きみんちへお見舞いに来たんです。そしてね、みんなはね、君の指図を受けて、僕たち少年探偵団の力で、明智先生の行方を捜そうじゃないかって言ってるんです。」
一息にそれだけ言ってしまうと、壮二君はかわいい目で、小林少年を睨みつけるようにして、返事を待つのでした。
「ありがとう。」
小林君は、なんだか涙が出そうになるのを、やっと我慢して、ギュッと壮二君の手を握りました。「君たちの事を明智先生がお聞きになったら、どんなにお喜びになるかもしれないですよ。ええ、君たちの探偵団で僕を助けて下さい。みんなで何か手がかりを探し出しましょう。
けれどね、君たちは僕と違うんだから、危険な事はやらせませんよ。もしもの事があると、みんなのお父さんやお母さんに申し訳ないですからね。
しかし、ぼくが今考えているのは、ちっとも危険のない探偵方法です。君、『聞き込み』っての知ってますか。いろんな人の話を聞いて回って、どんな小さなことでも逃さないで、うまく手がかりを掴む探偵方法なんです。
なまじっか、大人なんかより、子供のほうがすばしっこいし、相手が油断するから、きっとうまくいくと思いますよ。
それにはね、おとといの晩、先生を連れ出した女の人相や服装、それから自動車の行った方角も分かっているんだから、その方角に向かって、僕らが今の聞き込みをやればいいんですよ。
店の小僧さんでもいいし、御用聞きでもいいし、郵便配達さんだとか、その辺に遊んでいる子供なんかつかまえて、飽きずに聞いて回るんですよ。
ここでは方角が分かっていても、先になるほど道が分かれていて、見当をつけるのが大変だけれど、人数が多いから大丈夫だ。道が分かれるたびに、一人ずつ、そのほうへ行けばいいんです。
そうして、きょう一日聞き込みをやれば、ひょっとしたら、何か手がかりがつかめるかもしれないですよ。」
「ええ、そうしましょう。そんなことわけないや。じゃ、探偵団のみんなを門の中へ呼んでもいいですか。」
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 楼主| 发表于 2009-6-11 09:45:20 | 显示全部楼层
「ええ、どうぞ、僕も一緒に外へ出ましょう。」
そして、二人は、明智夫人の許しを得た上、ポーチのところへ出たのですが、壮二君はいきなり門の外へ駆け出して行ったかと思うと、間も無く、十人の探偵団員を引き連れて、門内へ引き返してきました。
見ると、小学校上級生ぐらいの、健康で快活な少年たちでした。
小林君は、壮二君の紹介で、ポーチの上から、みんなに挨拶しました。そして、明智探偵捜査の手段について、こまごまと指図を与えました。
無論一同賛成です。
「小林団長ばんざーい。」
もうすっかり、団長に祭り上げてしまって、嬉しさのあまり、そんなことを叫ぶ少年さえありました。
「じゃ、これから出発しましょう。」
そして、一同は少年団のように、足並みそろえて、明智邸の門外へ消えていくのでした。
                   午後四時
少年探偵団のけな気な捜索は、日曜、月曜、火曜、水曜と、学校の余暇を利用して、忍耐強く続けられましたが、何時まで経っても、これという手がかりはつかめませんでした。
しかし、東京中の何千人という大人のお巡りさんにさえ、どうすることもできないほどの難事件です。手がかりが得られなかったといって、けっして、少年捜索隊の無能のせいではありません。それに、これらの勇ましい少年たちは、後日、またどうのような手柄を立てないものでもないのです。
明智探偵行方不明のまま、恐ろしい十二月十日は、一日一日と迫ってきました。警視庁の人たちは、もういてもたってもいられない気持ちです。なにしろ盗難を予告された品物が、国家の宝物というのですから、捜査課長や、直接二十面相の事件に関係している中村係長などは、心配のためにやせほそる思いでした。
ところが、問題の日の二日前、十二月八日には、またまた世間の騒ぎを大きくするような出来事が起こったのです。というのは、その日の東京毎日新聞の社会面に、二十面相からの投書が、麗々しく掲載された事でした。
東京毎日新聞は、別に賊の機関新聞と言うわけではありませんが、この騒ぎの中心になっている二十面相その人からの投書とあっては、問題にしないわけにはいきません。ただちに、編集会議まで開いて、結局、その全文を載せることにしたのです。
それは長い文章でしたが、意味を掻い摘んで記しますと、
「私はかねて、博物館襲撃の日と十二月十日と予告しておいたが、もっと正確に約束する方が、いっそう男らしいと感じたので、ここに東京都民諸君の前に、その時間を通告する。
それは『十二月十日午後四時』である。
博物館長も警視総監も、出来る限りの警戒をしていただきたい。警戒が厳重であればあるほど、私の冒険はその輝きを増すであろう。」
ああ、なんたることでしょう。日付を予告するだけでも、驚くべき大胆さですのに、そのうえ時間まではっきり公表してしまったのです。そして、博物館長や警視総監に失礼せんばんな注意まで与えているのです。
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 楼主| 发表于 2009-6-12 10:13:36 | 显示全部楼层
これを読んだ都民の驚きは申すまでもありません。今までは、みんなばかばかしいことがと、あざ笑っていた人々も、もう笑えなくなりました。
当時の博物館長は、史学界の大先輩、北小路文学博士でしたが、その偉い老学者さえも、賊の予告を本気にしないではいられなくなって、わざわざ警視庁に出向き、警戒方法について、警視総監といろいろ打ち合わせをしました。
いや、そればかりではありません。二十面相のことは、国務大臣方の閣議の話題にさえ、上りました。中でも総理大臣や法務大臣などは、心配のあまり、警視総監を別室に招いて、激励の言葉を与えたほどです。
そして、全都民の不安のうちに、虚しく日がたって、とうとう十二月十日となりました。
国立博物館では、その日は早朝から、館長の北小路老博士をはじめとして、三人の係長、十人の書記、十六人の守衛や小遣いが、一人乗らず出勤して、それぞれ警戒の部署につきました。
無論当日は、表門を閉じて、観覧禁止です。
警視庁からは、中村捜査係長の率いるえりすぐった警官隊五十名が出張して、博物館の表門、裏門、塀の周り、館内の要所要所に頑張って、アリの入る隙間もない大警戒陣です。
午後三時半、余すところわずかに三十分、警戒陣は物々しく殺気だってきました。
そこへ警視庁の大型自動車が到着して、警視総監が、刑事部長を従えて現れました。総監は、心配のあまり、もうじっとしていられなくなったのです。総監自身の目で、博物館を見守っていなければ、我慢が出来なくなったのです。
総監たちは一同の警戒ぶりを視察したうえ、館長室に通って北小路博士に面会しました。
「わざわざ、あなたがお出かけくださるとは思いませんでした。恐縮です。」
老博士が挨拶しますと、総監は、少し決まり悪そうに笑って見せました。
「いや、お恥ずかしい事ですが、じっとしていられませんでね。たかが一盗賊のために、これほどの騒ぎをしなければならないとは、実に恥辱です。わしは警視庁に入って以来、こんなひどい恥辱を受けたことは初めてです。」
「アハハ・・・・・・。」老博士は力なく笑って、「私も同様です。あの青二才の盗賊のために、一週間というもの、不眠症にかかっておるのですからな。」
「しかし、もう余すところ二十分ほどですよ。え、北小路さん、まさか二十分の間に、この厳重な警戒を破って、たくさんの美術品を盗み出すなんて、いくら魔法使いでも、少し難しい芸当じゃありますまいか。」
「分かりません。わしには魔法使いのことは分かりません。ただ一刻も早く四時が過ぎ去ってくれればよいと思うばかりです。」
老博士は、怒ったような口調で言いました。あまりのことに、二十面相の話をするのも腹立たしいのでしょう。
室内の三人は、それきり黙り込んで、ただ壁の時計と睨めっこするばかりでした。
金モール厳しい制服に包まれた、相撲とりのように立派な体格の警視総監、中肉中背で、八字ひげの美しい刑事部長、背広姿でツルのようにやせた白髪白ぜんの北小路博士、その三人がそれぞれ安楽イスに腰掛けて、チラチラと、時計の針を眺めている様子は、物々しいというよりは、何かしら奇妙な、場所にそぐわぬ光景でした。そうして十数分が経過した時、沈黙に絶えかねた刑事部長が、突然口を切りました。
「ああ、明智君は、いったいどうしているんでしょうね。私は、あの男とは懇意にしていたんですが、どうも不思議ですよ。今までの経験から考えても、こんな失策をやる男ではないのですがね。」
その言葉に、総監はふとったからだを捻じ曲げるようにして、部下の顔を見ました。
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 楼主| 发表于 2009-6-15 10:27:44 | 显示全部楼层
「君たちは、明智明智と、まるであの男を崇拝でもしているようなことをいうが、僕は不賛成だね。いくら偉いといっても、たかが一民間探偵じゃないか。どれほどのことができるものか。一人の力で二十面相を捉えてみせるなどといっていたそうだが、広言がすぎるよ。今度の失敗は、あの男にはよい薬じゃろう。」
「ですが、明智君のこれまでの功績を考えますと、いちがいにそうもいいきれないのです。今も外で中村君と話した事ですが、こんなさい、あの男がいてくれたらと思いますよ。」
刑事部長の言葉が終わるか終わらぬときでした。館長室のドアが静かに開かれて、一人の人物が現れました。
「明智はここにおります。」
その人物がにこにこ笑いながら、よく通る声でいったのです。
「おお、明智君!」
刑事部長がイスから飛び上がって叫びました。
それは格好のよい黒の背広をぴったりと身につけ、頭の毛をモジャモジャにした、何時に変わらぬ明智小五郎その人でした。
「明智君、君はどうして・・・・・・。」
「それはあとでお話します。今は、もっと大切なことがあるのです。」
「むろん、美術品の盗難は防がなくてはならんが。」
「いや、それはもう遅いのです。ごらんなさい。約束の時間は過ぎました。」
明智の言葉に、館長も、総監も、刑事部長も一斉に壁の電気時計を見上げました。いかにも、長針はもう十二時のところを過ぎているのです。
「おやおや、すると二十面相は、うそをついたわけかな。館内には、別に異常もないようだが・・・・・・。」
「ああ、そうです。約束の四時はすぎたのです。あいつ、やっぱり手出しができなかったのです。」
刑事部長が凱歌をあげるように叫びました。
「いや、賊は約束を守りました。この博物館は、もう空っぽも同様です。」
明智が、重々しい口調で言いました。
                 名探偵の狼藉
「え、え、君は何をいっているんだ。何も盗まれてなんかいやしないじゃないか。僕は、つい今しがた、子の目で陳列室をずっと見回ってきたばかりなんだぜ。それに、博物館の周りには、五十人の警官が配置してあるんだ。僕のところの警官たちはめくらじゃないんだからね。」
警視総監は、明智を睨みつけて、腹立たしげに怒鳴りました。
「ところが、すっかり盗み出されているのです。二十面相は例によって魔法を使いました。なんでしたら、ご一緒に調べて見ようではありませんか。」
明智は、静かに答えました。
「フーン、君は確かに盗まれたというんだね。よし、それじゃ、みんなで調べて見よう。館長、この男の言うのが本当かどうか、ともかく陳列室へ行ってみようじゃありませんか。」
まさか明智がうそをいっているとも思えませんので、総監も一度調べて見る気になったのです。
「それがいいでしょう。さあ、北小路先生もご一緒に参りましょう。」
明智は白髪白ぜんの老館長ににっこり微笑みかけながら、促しました。
そこで、四人は、連れ立って館長室を出ると、廊下づたいに本館の陳列場のほうへ入っていきましたが、明智は北小路館長の老体をいたわるようにその手を取って、先頭に立つのでした。
「明智君、君は夢でもみたんじゃないか。どこにも異状はないじゃないか。」
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 楼主| 发表于 2009-6-16 10:34:43 | 显示全部楼层
陳列室に入るやいなや、刑事部長が叫びました。
いかにも部長のいうとおり、ガラス張りの陳列棚の中には、国宝の仏像がズラッと並んでいて、別になくなった品もないようすです。
「これですか。」
明智は、その仏像の陳列棚を指差して、意味ありげに部長の顔を見返しながら、そこに立っていた守衛に声をかけました。
「このガラス戸を開いてくれたまえ。」
守衛は、明智小五郎を見知りませんでしたけれど、館長や警視総監と一緒だものですから、命令に応じて、すぐさま持っていた鍵で、大きなガラス戸を、ガラガラと開きました。
すると、その次の瞬間、実に異様な事が起こったのです。
ああ、明智探偵は、気でも違ったのでしょうか。彼は、広い陳列棚の中へ入って行ったかと思うと、中でも一番大きい、木彫りの古代仏像に近づき、いきなり、その格好のよい腕を、ポキンと折ってしまったではありませんか。
しかもその素早いこと、三人の人たちが、呆気に取られ、止めるのも忘れて、目を見張っているまに、同じ陳列棚の、どれもこれも国宝ばかりの五つの仏像を、次から次へと、忽ちのうちに、片っ端から取り返しのつかぬ傷ものにしてしまいました。
あるものは腕を折られ、あるものは首を引きちぎられ、あるものは指をゆきちぎられて、見るも無残な有様です。
「明智君、何をする。おい、いけない。よさんか。」
総監と刑事部長とが、声をそろえて怒鳴りつけるのを聞き流して、明智はサッと陳列棚を飛び出すと、また、最前のように老館長の側へ寄り、その手を握って、ニコニコと笑っているのです。
「おい、明智君いったい、どうしたと言うんだ。乱暴にもほどがあるじゃないか。これは博物館の中でも一番貴重な国宝ばかりなんだぞ。」
真っ赤になって怒った刑事部長は、両手を振り上げて、今にも明智に掴みかからんばかりのありさまです。
「ハハハ・・・・・・、これが国宝だってあなたの目はどこについているんです。よく見てください。今僕が折り取った仏像の傷口を、よく調べてください。」
明智の確信に満ちた口調に、刑事部長は、ハッとしたように、仏像に近づいて、その傷口を眺め回しました。
すると、どうでしょう。首を捥がれ、手を折られたあとの傷口からは、外見の黒ずんだ古めかしい色合いとは似ても似つかない、まだ生々しい白い木口が、覗いていたではありませんか。奈良時代の彫刻に、こんな新しい材料が使われているはずはありません。
「すると、君は、この仏像が偽者だと言うのか。」
「そうですとも、あなた方に、もう少し美術眼がありさえすれば、こんな傷口を拵えて見るまでもなく、一目で偽者と分かったはずです。新しい木で模造品を作って、外から塗料を塗って古い仏像のように見せかけたのですよ。模造品専門の職人の手にかけさえすれば、わけなくできるのです。」
明智は、こともなげに説明しました。
「北小路さん、これはいったい、どうしたことでしょう。国立博物館の陳列品が、まっかな偽物だなんて・・・・・・。」
警視総監が老館長をなじるように言いました。
「呆れました。呆れた事です。」
明智に手を取られて、呆然とたたずんでいた老博士が、狼狽しながら、照れ隠しのように答えました。
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 楼主| 发表于 2009-6-23 21:51:50 | 显示全部楼层
そこへ、騒ぎを聞きつけて、三人の館員が慌しく入ってきました。その中の一人は、古代美術鑑定の専門家で、その方面の係長を務めている人でしたが、壊れた仏像を一目見ると、さすがに忽ち気づいて叫びました。
「アッ、これはみんな模造品だ。しかし、変ですね。昨日までは、確かに本物がここにおいてあったのですよ。わたしは昨日の午後、この陳列棚の中へ入ったのですから、間違いありません。」
「すると、昨日まで本物だったのが、今日突然、偽者と変わったと言うのだね。変だな。いったい、これはどうしたというのだ。」
総監がキツネにつままれたような表情で、一同を見回しました。
「まだお分かりになりませんか。つまり、この博物館の中は、すっかり、空っぽになってしまったということですよ。」
明智はこういいながら、向こう側の別の陳列棚を指差しました。
「な、何だって?すると、君は・・・・・・。」
刑事部長が、思わず頓狂な声を立てました。
最前の館員は、明智の言葉の意味を悟ったのか、ツカツカとその棚の前に近づいて、ガラスに顔をくっつけるようにして、中にかけならべた黒ずんだ仏画を凝視しました。そして、忽ち叫びだすのでした。
「アッ、これも、あれも、館長、館長、この中の絵は、みんな偽者です。一つ残らず偽者です。」
「他の棚を調べてくれたまえ。早く、早く。」
刑事部長の言葉を待つまでもなく、三人の館員は、口々に何かわめきながら、気違いのように陳列棚から陳列棚へと、覗きまわりました。
偽者です。めぼしい美術品は、どれもこれも、すっかり模造品です。」
それから、彼らは転がるように、階下の陳列場へ降りていきましたが、暫くして、元の二階へ戻ってきたときには、館員の人数は、十人以上に増えていました。そして、誰も彼も、もうまっかになって憤慨しているのです。
「下も同じ事です。残っているのはつまらないものばかりです。貴重品という貴重品は、すっかり偽者です・・・・・・。しかし、館長、今もみんなと話したのですが、実に不思議というほかはありません。昨日までは、たしかに、模造品なんて一つもなかったのです。それぞれ受持のものが、その点は自信をもって断言しています。それが、たった一日のうちに、大小百何点という美術品がまるで魔法のように、偽者に変わってしまったのです。」
館員は、悔しさに地だんだをふむようにして叫びました。
「明智君、われわれはまたしてもやつのために、まんまとやられたらしいね。」
総監が、沈痛なおももちで名探偵を省みました。
「そうです。博物館は、二十面相のために盗奪されたのです。それは、最初に申し上げたとおりです。」
大ぜいの中で、明智だけは、少しもとりみだしたところもなく、口元に微笑さえ浮かべているのでした。
そして、あまりの打撃に、立っている力もないかと見える老館長を、励ますように、しっかりその手を握っていました。

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发表于 2009-6-24 15:38:34 | 显示全部楼层
辛苦 辛苦啦  
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 楼主| 发表于 2009-6-24 22:15:03 | 显示全部楼层
                 種明かし
「ですが、私どもには、どうもわけが分からないのです。あれだけの美術品を、たった一日の間に、偽者と摩り替えるなんて、人間わざでできることではありません。まあ、偽者のほうは、前々から、美術学生かなんかに化けて観覧に来て、絵図を書いていけば、模造できないことはありませんけれど、それをどうして入れ替えたかが問題です。まったくわけが分かりません。」
館員は、まるで難しい数学の問題にでもぶっつかったようにしきりに小首を傾けています。
「昨日の夕方までは、確かに、みんな本物だったのだね。」
総監が訪ねますと、館員たちは、確信に満ちた様子で、
「それはもう、決して間違いございません。」と、口を揃えて答えるのです。
「すると、恐らく昨夜の夜中あたりに、どうかして二十面相一味のものが、ここへ忍び込んだのかもしれんね。」
「いや、そんなことは、出来るはずがございません。表門も裏門も塀の周りも、大勢のお巡りさんが、徹夜で見張っていてくだすったのです。館内にも、ゆうべは館長さんと三人の
宿直員が、ずっとつめきっていたのです。その厳重な見張りの中をくぐって、あの夥しい美術品を、どうして持ち込んだり、運び出したりできるものですか。まったく人間わざではできないことです。」
館員は、あくまで言いました。
「わからん、実に不思議だ・・・・・・。しかし、二十面相のやつ、広言したほど男らしくもなかったですね。あらかじめ、偽者と置き換えておいて、さあ、このとおり盗みましたというのじゃ、十日の午後四時なんて予告は、悔し紛れに、そんなことでも言ってみないではいられませんでした。
「ところが、決して無意味ではなかったのです。」
明智小五郎が、まるで二十面相を弁護でもするように言いました。彼は老館長北小路博士と、さも仲良しのように、ずっと、さいぜんから手を握り合ったままなのです。
「ホウ、無意味でなかったって?それはいったい、どういうことなんだね。」
警視総監が、不思議そうに名探偵の顔を見て、訪ねました。
「あれをごらんください。」
すると明智は窓に近づいて、博物館の裏手の空き地を指差しまた。
「僕が十二月十日ごろまで、待たなければならなかった秘密というのは、あれなのです。」
その空き地には、博物館創立当時からの、古い日本建ての館員宿直室が建っていたのですが、それが不用になって、数日前から、家屋の取り壊しをはじめ、もうほとんど、取り壊しも終わって、古材木や、屋根がわらなどが、あっちこっちに積み上げてあるのです。
「古家を取り壊したんだね。しかし、あれと二十面相の事件と、いったい、何の関係があるんです。」
刑事部長は、びっくりしたように明智を見ました。
「どんな関係があるか、じき分かりますよ・・・・・・。どなたか、お手数ですが、中にいる中村警部に、今日昼ごろ裏門の番をしていた警官を連れて、急いでここへ来てくれるように、お伝えくださいませんか。」
明智の指図に、館員の一人が、何かわけが分からぬながら、大急ぎで階下へ降りていきましたが、間も無く中村捜査係長と一人の警官を伴って帰ってきました。
「きみが、昼ごろ裏門のところにいた方ですか。」
明智がさっそく訪ねますと、警官は総監の前だものですから、ひどく改まって、直立不動の姿勢で、「そうです。」と答えました。
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 楼主| 发表于 2009-6-25 13:06:18 | 显示全部楼层
「では、きょう正午から一時ごろまでの間に、トラックが一台、裏門を出て行くのを見たでしょう。」
「はあ、お尋ねになっているのは、あの取り壊し家屋の古材木をつんだトラックのことではありませんか。」
「そうです。」
「それならば、確かに通りました。」
警官は、あの古材木がどうしたんです、と言わぬばかりの顔つきです。
「みなさんお分かりになりましたか。これが賊の魔法の種です。うわべは古材木ばかりのように見えていて、そのじつ、あのトラックには、盗難の美術品が全部積み込んであったのですよ。」
明智は一同を見回して、驚くべき種明かしをしました。
「すると、取り壊しの人夫の中に賊の手下が混じっていたと言うのですか。」
中村係長は、目をパチパチさせて聞き返しました。
「そうです。混じっていたのではなくて、人夫全部が賊の部下だったのかもしれません。二十面相は早くから万端の準備を整えて、この絶好の機会を待っていたのです。家屋の取り壊しは、たしか十二月五日から始まったのでしたね。その着手期日は、三月も四月も前から、関係者には分かっていたはずです。そうすれば、十日ごろはちょうど古材木運び出しの日にあたるじゃありませんか。予告の十二月十日と言う日付は、こういうところから割り出されたのです。また午後四時というのは、本物の美術品がちゃんと賊の巣窟に運ばれてしまって、もう偽者が分かっても差し支えないと言う時間を意味したのです。」
ああ、なんという用意周到な計画だったでしょう。二十面相の魔術には、何時の時も、一般の人の思いも及ばない仕掛けが、ちゃんと用意してあるのです。
「しかし明智君、たとえ、そんな方法で運び出す事は出来たとしても、まだ賊が、どうして陳列室へ入ったか、何時の間に、本物と偽者と置き換えたかと言う謎は、解けませんね。」
刑事部長が明智の言葉を信じかねるようにいうのです。
「置き換えは、きのうの夜更けにやりました。」
明智は、何もかも知り抜いているような口調で語り続けます。
「賊の部下が化けた人夫たちは、毎日ここへ仕事へ来る時に、偽者の美術品を少しずつ運び入れました。絵は細く巻いて、仏像は分解して手、足、首、胴と別々にむしろ包みにして、大工道具と一緒に持ち込めば、疑われる気遣いはありません。みな、盗み出される事ばかり警戒しているのですから、持ち込むものに注意なんかしませんからね。そして、贋造品は全部、古材木の山に覆い隠されて、昨夜の夜更けを待っていたのです。
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 楼主| 发表于 2009-6-26 21:29:45 | 显示全部楼层
「だが、それを誰が陳列室へ置き換えたのです。人夫たちは、みな夕方帰ってしまうじゃありませんか。たとえそのうち何人かが、こっそり構内に残っていたとしても、どうして陳列室へ入ることができます。夜はすっかり出入り口が閉ざされてしまうのです。館内には、館長さんや三人の宿直員が、一睡もしないで見張っていました。その人たちに知れぬように、あのたくさんの品物を置き換えるなんて、まったく不可能じゃありませんか。」
館員のひとりが、実にもっともな質問をしました。
「それにはまた、実に大胆不敵な手段が、用意してあったのです。昨夜の三人の宿直員というのは、けさ、それぞれ自宅へ帰ったのでしょう。一つその三人の自宅へ電話を掛けて、主人が帰ったかどうか、確かめて見てください。」
明智がまたしても妙な事を言い出しました。三人の宿直員は、だれも電話を持っていませんでしたが、それぞれ付近の商家に呼び出し電話が通じますので、館員のひとりがさっそく電話をかけてみますと、三人が三人とも、昨夜以来まだ自宅へ帰っていない事が分かりました。宿直員たちの家庭では、こんな事件のさいですから、きょうも、留め置かれているのだろうと、安心していたというのです。
「三人が博物館を出てからもう八-九時間もたつのに、そろいもそろって、まだ帰宅していないというのは、少しおかしいじゃありませんか。ゆうべ徹夜をした、疲れたからだで、まさか遊びまわっているわけではありますまい。なぜ三人が帰らなかったのか、この意味がお分かりですか。」
明智は、また一同の顔をぐるっと見回しておいて、言葉をつづけました。
「ほかでもありません。三人は、二十面相一味のために誘拐されたからです。」
「え、誘拐された?それはいつのことです。」
館員が叫びました。
「きのうの夕方、三人がそれぞれ夜勤をつとめるために、自宅を出たところをです。」
「え、え、きのうの夕方ですって?じゃ、昨夜ここにいた三人は・・・・・・。」
「二十面相の部下でした。本当の宿直員は賊の巣窟へ押し込めておいて、その代わりに賊の部下が博物館の宿直を勤めたのです。なんてわけのない話でしょう。賊が見張り番をつとめたんですから、偽者の美術品の置き換えなんて、じつに造作もないことだったのです。
みなさん、これが二十面相のやり口ですよ。人間わざでは出来そうもないことを、ちょっとした頭の働きで、やすやすとやってのけるのです。」
明智探偵は、二十面相の顔のよさを褒め上げるように言って、ずっと手をつないでいた館長北小路老博士の手首を痛いほど、ギュッと握り締めました。
「ウーン、あれが賊の手下だったのか。うかつじゃった。わしがうかつじゃった。」
老博士は白ぜんを震わせて、さも悔しそうに呻きました。両眼がつりあがって、顔が真っ青になって、見るも恐ろしい憤怒の形相です。しかし、老博士は、三人の偽者をどうして見破る事ができなかったのでしょう。二十面相なら知らぬこと、手下の三人が、館長にも分からないほど上手に変装していたなんて、考えられない事です。北小路博士ともあろう人が、そんなにやすやすと騙されるなんて、少しおかしくはないでしょうか。
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