~ウラかオモテか~
問題 次の文章を読んで、後の問に答えなさい。答えは1,2,3,4から最も適当なものを一つ選ぶなさい。
数年前のことだが、ある官庁から封書が届いた。あけてみると、ワープロで打った文書がすぐ目に飛び込んできた。つまり、文面を外にして折ってあったのである。ぎょっとした。差出人は若い事務官らしい。おそらくものを知らないから、こんなことをしたのだろうと勝手に解釈した。
それにしてもひどいものだとびっくりしたから、いつまでも頭に残っていた。そして気をつけるともなく気をつけていると、①同じようなことをしている文書が時々ある。世の中はおこまで落ちぶれてきたのかと②情けない思いをして、ものをしらない代表のように言われる学生はどうであろう、と思ってアンケートをとることを考え付いた。
五十人に聞いた。全員が文面を内側にして出す、と答えた。外にしたりすることがあるのか、と反問したものもいる。まずは常識的である、とひそかに安心した。やはりお役所がおかしいのだと、こんどはいっそう自信を持って勝手に判断した。そのことを文章に書いたものをいれて本を出版したところ知人から注意を受けた。
③それは無知のせいではない。非常識と決め付けられては困る。このごろは文面を外にする折り方は珍しくない。自分も仕事上の通信ではそのようにしている。書いてあることが内側になっていると、ひらいて見るのに手間がかかる。外を向いていれば、一目で用件がわかって便利である。能率的である。もっとも私信は別で、これは必ず書いたほうを内側にして便箋を折る...
そう言われて、ひどくおどろいた。いつのまにか世の中で新しい自分のまったく知らない方式が行われていたのである。こちらが無知なのに、相手がいけないと思ったりして恥ずかしかった。この知人は大企業の最高幹部として活躍しているだけでなく、文筆でも一家をなしていて、日ごとから敬服している人だけに、④その言葉は決定的だった。私はさっそく自分の考えを訂正することにした。
そこへやはり知り合いの年配の婦人からやはりその本をよんだといってはがきをもらった。その人が先年、ある機関の事務の仕事をすることになったとき、まず、最初に教えられた訓練は郵便物を出すとき、文面を外側して折るように、ということだった、と書いてある。
そう言われて注意してみると、あるわあるわ、文面を外にした郵便物が毎日いくつも届くのである。ダイレクトメールのたぐいが多いこともあって、これまで気がつかなかった。そんなものは手紙と認めないから、ろくに見もしないで、時には封も切らずに捨てていた。そうゆう郵便物の多くは印刷してある。あるいはワープロで打ってある。事務用、業務用、宣伝用の通信で、手書きの私信で外側にしたのは、いまのところひとつもない。しかし、それだけ外折りが増えてくると、⑤私信といえども安心できなくなるかもしれない。
折り曲げるから、文面を内にするか外にするかが問題になる。折り曲げてあるから広げる面倒を起こる。一枚をそのままにして封に入れればそういうことが一挙に解決してしまう。そう考えるところが多くなったとしても不思議ではない。折らないものをそのまま送ってくる。それで郵便物がどんどん大型化してきた。
それはともかく、当面は、私信は文面を内側にし、事務通信、ダイレクトメールは外側にするという二通りの様式が共存することになる。そのことをまだ一般に知らない人が多いということを官庁や企業などの人は⑥頭に入れておいたほうがよいかもしれない。われわれはなにごとによらず、むき出しをきらう。金や物を人に渡すときにもかならず包む。封書からむき出しの文面が飛び出してくるのはあまりいい感じのものではない。
(外山滋比古『ことがと人間関係』チクマ出版社)
問Ⅰ ①「同じようなことをしている文書」とあるが、どんな文書か。
1.ワープロで打った文書。
2.文面を外にして折った文書。
3.勝手な解釈を載せた文書。
4.ものをしらずに書いた文書。
問Ⅱ ②「情けない思い」とあるが、筆者はなぜ情けないと思ったのか。
1.ワープロで打った文書はいつも文面を外にして折られていて、ぎょっとすることが多いから。
2.若い事務官は、文書の折り方に気をつけたり付けなかったりで、びっくりさせられることが多いから。
3.文面を外側にして折った非常識だと思われる文書をときどき見るので、ものを知らない人間が増えてきたと感じたから。
4.世の中が落ちぶれてきて、ものをしらない学生や若い事務官が多くなったから。
問Ⅲ ③「それは無知のせいではない」とあるが、「それ」は何を指すか。
1.学生がものを知らないこと。
2.文面を内側にして折ること。
3.学生が反問したこと。
4.文面を外側にして折ること。
問Ⅳ ④「その言葉は決定的だった」とあるが、何を決定的にしたのか。
1.知人を敬服すること。
2.自分の考えを訂正すること。
3.文面を外側にして折ること。
4.相手が間違っていること。
問Ⅴ ⑤「私信といえども安心できなくなるかもしれない」とあるが、どういう意味か。
1.私信は安心して送れなくなるかもしれない。
2.私信も印刷するようになるかもしれない。
3.私信も外折になるかもしれない。
4.私信は折らずに送るようになるかもしれない。
問Ⅵ ⑥「頭に入れておいたほうがよいかもしれない」とあるが、何を頭に入れておくのか。
1.私信は文面を内に事務通信、宣伝用は外にするという二通りの様式が共存すること。
2.私信は文面を内に事務通信、宣伝用は外にするという二通りの様式が将来もずっと共存するだろうということ。
3.私信は文面を内に事務通信、宣伝用は外にするという二通りの様式が共存することを、知らない人が多いこと。
4.私信は文面を内に事務通信、宣伝用は外にするという二通りの様式が共存することを、知らない人はいないこと。
問Ⅶ 文書の外折りを筆者はどのように思っているか。
1.世の中の新しい方式ではあるが、むき出しの文面は感じのいいものではないので、やめるべきだ。
2.あまり感じのいいものではないし、われわれの習慣にもそぐわないので非常識である。
3.文面を外にした郵便物は手紙と認められていないから、事務用、業務用、宣伝用だけにしたほうがいい。
4.非常識であるとはいわないが、われわれの習慣にそぐわないし、あまり感じのいいものではない。 |