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『国境の南、太陽の西』(1)
「レコードを扱うのは島本さんの役だった。レコードをジャケットから取り出し、溝を指を触れないように両手でターンテーブルに載せ、小さな刷毛でカートリッジのごみを払ってから、レコード盤にゆっくりと針をおろした。
レコードが終わると、そこにほこり取りのスプレーをかけ。フェルトの布で拭いた。そしてレコードをジャケットにしまい、棚のもとあった場所に戻した。彼女は父親に教え込まれたそんな一連の作業を、ひとつひとつおそろしく真剣な顔つきで実行した。目を細め、息さえひそめていた。僕はいつもソファーに腰掛けて、彼女のそのような仕種をじっと眺めていた。
レコードを棚に戻してしまうと、島本さんはやっと僕の方を向いていつものように小さく微笑んだ。そのたびに僕は思ったものだった。彼女が扱っていたのはただのレコード盤ではなく、ガラス瓶の中に入れられた誰かの脆い魂のようなものではなかったのだろうかと。」
『国境の南、太陽の西』(村上春樹、講談社、二〇〇三年)p13-14より
译:
管理唱片是岛本的任务。她从唱片护套中将其取出,让手指不触及细纹的同时将唱片放在转盘上,用小小的毛刷拂去磁头的微尘,之后才将唱针慢慢地搁到唱片盘之上。
一张盘听完,她便在唱片上喷上用于除尘的喷雾剂,并用毡制的布擦拭干净。然后,将唱片放回护套,摆回到架上之前所在的位置。她微眯着眼,屏住呼吸,以一种极其专注的神情将父亲灌输的方法一个步骤一个步骤地认真完成。我总是坐在沙发上,静静地看着她的一举一动。
将唱片放回到架子上后,岛本终于朝我的方向投来了一如往常的潜潜的微笑。每当这个时候,我总会这样想:她的手所接触的并不是唱片,而是被置于玻璃瓶中的,不知是谁的,易碎孱弱的灵魂吧。
『国境の南、太陽の西』(2)
僕はそのときと同じ答えを島本さんに対しても返した。僕はそう言うと、島本さんはじっと僕の顔を見ていた。彼女の表情には、何かしら人の心を引くものがあった。そこにはーーこれはもちろんあとになって思い返してみてそう感じたわけだがーー人の心の薄い皮を一枚一枚優しく剥いでいくような、そういう官能的なものがあった。表情の変化に伴って細かく形を変える薄い唇と、瞳のずっと奥の方でちらちらと見え隠れする仄かな光のことを僕は今でもよく覚えている。その光は、細長い暗い部屋の奥の方で揺れている小さな蝋燭の炎を僕に思い起こさせた。
「あなたの言ってること、なんとなくわかるような気がする」と彼女は大人びた静かな声で言った。
「そう?」
「うん」と島本さんは言った。「世の中には取り返しのつくことと、つかないことがあると思うのよ。そして時間が経つというのは取り返しのつかないことよね。こっちまで来ちゃうと、もうあとには戻れないわよね。それはそう思うでしょう?」
僕は頷いた。
「ある時間が経ってしまうと、いろんなものごとがもうかちかちに固まってしまうのよ。セメントがバケツの中で固まるみたいに。そしてそうなると、私たちはもうあと戻り出来なくなっちゃうのよ。つまりあなたが言いたいのは、もうあなたというセメントはしっかりと固まってしまったわけだから、今のあなた以外のあなたはいないんだということでしょう?」
「たぶんそういうことだと思う」と僕は不確かな声で言った。
『国境の南、太陽の西』(村上春樹、講談社、2003年)p18-19より
译:
此时,我亦以相同的内容回答了岛本。我这样说时,她一直安静地看着我的脸。她的表情里,像是有一种能拨动人心弦的什么东西。当然,这亦是在很久之后回首再忆时才感悟到的,那种东西里似有一种将人心的薄膜一层一层轻柔地剥离开去的肉欲。至今我依然清晰地记得,她那伴随着表情的变化而微微改变形状的薄唇,与瞳孔的最深处那若隐若现的微弱的光亮。这光亮让我想起了暗暗的细长小屋尽头的那盏摇曳不定的小小烛光。
“你的话,我好像能明白。”她以一种大人般安静的口吻说道。
“是吗?”
“嗯。”岛本说道,“我觉得,这世上有可以挽回的事与不可挽回的事。时间的流逝正是不可挽回的。既然已经到了这里,就再也回不到从前了。你说呢?”
我点了点头。
“一段时间逝去了,很多东西便就此硬生生地凝固了。就如同水泥凝固在铁通里一般。这样一来,我们也走不了回头路了。也就是说,你想说的是:你就是那堆变硬的水泥,除了当下的你之外,再也没有其他的你。对吧?”
“大概是这么回事。”我的语气有些含糊。 |
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