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4 不吉なカーブを回る(2)
車はコンクリートの橋を渡り、昨日と同じコースを辿って山を上がった。綿羊飼育場の前を通りすぎる時、我々は三人でその二本のポールと看板を眺めた。飼育場は信徒静まりかえっていた。羊たちはあのブールの目でそれぞれの沈黙の空間をみつめているのだろう。
「消毒は午後からやるんですか?」
「うん、まあな。でもたいして急ぐことでもないんだ。雪が降るまでに済ませちゃいいのさ」
「雪はいつごろから降るんですか?」
「来週降ってもおかしくないよ」と管理人は言った。そしてハンドルに片手を置いたまま下を向いてしばらく咳をした。「積りはじめるのは十一月に入ってからさ。ここらあたりの冬のことは知ってんのかい?」
「いや」と僕は言った。
「一度積り始めると堰が切れたみたいに際限なく積るんだ。そうするともうどうしようもない。家の中にひっこんで首をすくめているしかないやな。そもそも人間の住む土地じゃないんだ」
「でもずっと住んでるんでしょ?」
「羊が好きだからね。羊は性格の良い動物だし、人の顔もちゃんと覚えるんだ。まあ、羊の世話をしてると一年なんてあっという間にすぎちまうし、ただそれがぐるぐるまわっていくだけの話よ。秋に交尾して、冬をやりすごして、春に子供を産んで、夏に放牧する。仔羊が大きくなって、その秋にはもう交尾する。そのくりかえしだよ。羊は毎年入れ替えって、俺だけが年をとる。年をとると町を出ていくのが余計に億劫になる」「冬には羊は何をしてるの?」と彼女は訊ねた。
管理人は彼女の存在にはじめて気がついたみたいに、ハンドルに手を置いたままぐるりとこちらとこちらを向き、彼女の顔を食い入るように眺めた。アスファルトの直線道路で対向車(たいこうしゃ)の影もなかったからいいようなものの、それでも冷や汗が流れた。
「冬のあいだ羊は牧舎の中でじっとしてるんだよ」管理人はやっと前方を向いてからそう言った。
「退屈しないのかしら?」
「あんたは自分の人生は退屈だと思うかい?」
「わからないわ」
「羊だってそれと似たようなもんだよ」と管理人は言った。「そんなこと考えもしないし、考えてもわかりっこない。干草を食べたり、小便をしたり、軽い喧嘩(げんか)をしたり、おなかの子供のことを考えたりしながら冬を過すんだ」
山の勾配が少しずつ急になり、それともに道路も大きなS字形のカーブを描き始めた。田園的な風景は次第に姿を消し、絶壁(ぜっぺき)のようにそそりたつ暗い原生林が道の両側を支配するようになった。時折林の切れ目から平野部が見渡せた。
「雪が積ることのあたりはもうぜんぜん走れなくなっちまうよ」と管理人は言った。「もっとも走る必要もないんだけどさ」
「スキー場や登山コースはないんですか?」と僕は訊いてみた。
「ないね。何もないんだ。何もないから観光客も来ない。だから町もどんどんさびれていく。昭和三十年代の半ば頃までは寒冷地農業のモデル?タウンとして結構活気もあっただけどあったんだけど、米が余りだしてからは誰も冷蔵庫の中で農業をつづけることに興味なんて持たなくなったのさ。当然のことだけどな」
汽车驶过洋灰桥,和昨天走相同的路线上山。从绵羊饲养场门前经过时,我们三人都眺望那两根柱了和牌子。饲养场又恢复了寺院般的宁静。那些羊们用其蓝色的眼睛寻找各自沉默的空间。
“消毒是从下午开始吗?”
“嗯,这个。可是也并不是很急的事。在降雪之前完成即可。”
“雪一般从什么时候开始下呢?”
“若是下周下雪的话也并不奇怪。”管理人说。然后把一只手放到方向盘上朝下咳嗽了一会儿。“开始积雪那是在十一月。有关这里冬天之事你们知道吗?”
“不知道。”我说。
“一旦开始积雪就像河坝断开那样无边际地积堆起来。也就是没什么办法,就呆在家里紧缩脖子,这里原本就不是人居住的土地。”
“那怎么还一直住在这里?”
“羊非常可爱。羊是性格温顺的动物,也能记住人脸的模样。若是管理羊的话,一年的时间很快就过去了,也就这样一圈一圈重复地转。在秋天交尾,冬天过后,到春天产仔,到夏天放牧。等到仔羊长大后到了秋天又要交尾。就要这样不断地重复。羊就是这样每年更替,我呢就长岁数。等年龄大了就不想离开这里了。”“在冬天羊都做什么呢?”她问。
管理人像是现在才注意到她的存在,把手放到方向盘反复向这里看,凝视着她的脸。由于是沥青路很直也看不到对方开车来的影子,虽如此但我还是担心流着汗。
“在冬天羊就一直呆在羊棚里。”管理人又开始朝前方看之后这样说。
“若是那样的话显得多么无聊呀。”
“你是否在想自己的人生很无聊?”
“自己也讲不清楚。”
“羊似乎也是那样的东西。”管理人说。“那样的事或许是没有想过,即便是想也想不明白。吃干草,小便,相互之间轻微吵闹,想着肚子里的孩子。就这样冬天就过去了。”
山的坡度稍微变陡了一点,随之其道路也开始变成大S字形的弯曲。田园风景在逐渐消失,就像绝壁那样耸立着的黑色的原始森林竖立在道路两傍。偶尔透过伐木的缝隙能看到平原。
“积雪前后就彻底不能跑路了。”管理人说。“当然也就没有跑路的必要了。”
“滑雪场和登山队什么的也没有吗?”我问了一下。
“没有呀。什么也没有。因为什么也没有所以观光的游客也就不来了。接着镇上也就随之逐渐衰落了。眧和三十年代中作为寒冷地带的农业典范,那时还很有活气,等到大米多了丰收了谁也就不再从事北方像在冷库中的农业了,相对兴趣也就没有了。这是很当然了。” |
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