増値税の実務と輸出還付
Ⅰ.中国の税体系に占める増値税の位置付け
a.間接税の一種である:
営業税、消費税と共に取引額をベースに計算されるもので、所得をベースに計算される直接税に対して『間接税』と呼ばれる。
b.国家税務局管轄の税目である:
外資系企業にとっては、企業所得税とともに国家税務局による徴収及び調査を受ける対象税目である。但し、事務効率化と納税者の便宜を考慮して国税局と地税局は相互に徴収事務を委託しあうことができるとされる。
c.外貨管理及び関税との関わりが深い:
貨物の国際間移動に関連して発生する税目であることから、外貨規制及び関税の取扱いを合わせて考えなければいけない。
d.国家税収に占める割合が高い:
2002年度の税収見込み1兆7000億元のうち、40%近くは増値税による収入で占められる模様。直接税、特に個人所得税の徴税システムが不完備であることから、企業を対象として徴収する税目への財政依存度が高くなっている。ちなみに日本の税収総額(国税地方税合計)に占める間接税収入の割合は約30%。
Ⅱ.増値税の実務
増値税は主として物品の販売を対象とする流通税の一つで、最終消費者が税負担者となる付加価値税である。
付加価値税では、各納税者は自己の生産販売活動によって生み出された価値に対して計算された税額を納付するが、これは自己の経費によって捻出するものではなく、後段階の取引関係者に転嫁されてゆく。よって増値税の負担者はその物品を国内で自家消費する最終ユーザーである。増値税の納税額は、売上増値税から仕入増値税を控除した差額となる。売上増値税とは売上の段階において売上に加算してユーザーより受取った増値税を指し、仕入増値税とは仕入の段階において既に支払った増値税を指す。このことからわかるように、納税の原資はユーザーから預かった売上増値税であり、ここから立替払いした仕入増値税を控除し、その差額を納税することとなる。
同じ間接税でも帳簿方式と呼ばれる日本の消費税と異なり、中国はインボイス方式を採用しており、税額計算に専用領収書を用いる。売上計上に際して得意先に発行した増値税インボイスの控えから、仕入の際に仕入先から受取ったインボイスを金額的に控除して税務局に納める金額が決まる。従って、インボイスの未入手や不備(記載誤り等)など形式要件が極めて厳格で、時にこれを理由とした税収確保を図っていると取られかねない判断を税務局が下すこともある。特に税金還付時の形式要件が厳格である。
1. 増値税の概要と留意点
増値税に関する基本法規は「中華人民共和国増値税暫定条例」及び「中華人民共和国増値税暫定条例実施細則」(1994年1月1日施行)である。これらの基本法規及び各種の関連通達に基づいて、以下に増値税の概要をまとめ、主な留意点を挙げる。
① 課税対象:
・中国国内における物品の販売または加工、修理、組立修理役務の提供
(留意点)みなし販売行為
a.物品を代理販売させること
b.代理販売物品を販売すること
c.2ヶ所以上の機構を有し、統一計算を実施する納税者が、一方の機構から別の機構に物品を移送し、販売すること(同一県(市)内の場合を除く)
d.自家製造、委託加工した物品を非課税項目に用いること
e.自家製造、委託加工または購入した物品を出資として提供すること
f.自家製造、委託加工または購入した物品を株主、投資者に分配すること
g.自家製造または委託加工した物品を集団福祉、個人消費に用いること
h.自家製造、委託加工または購入した物品を無償贈与すること
上記の行為はそれぞれ物品の販売とみなされ、増値税の対象となるため、留意が必要である。例えば、生産企業が自社で生産した製品を自社で使用する場合等である。
また当該行為を行なったもののその行為について増値税対象取引と認定し、税の納税を義務付けるものであり当該行為を増値税込みで行なうべきと言っている訳ではないことに留意する必要がある。即ち、配当として自社製品を分配するにあたり投資者より増値税を徴収しなければいけない、という意味ではないということである。
またc.は、生産企業が生産した自社製品を他地域にある販売分公司に移送する場合を指す。具体的には、分公司が自ら販売先に発票(インボイス)を発行するか、或いは販売先から代金を回収する場合に、総公司と分公司はそれぞれ増値税を納付することが必要となり、いずれの行為もない場合には総公司が統一的に増値税を納付することになる。
つまり、分公司への移送に伴う増値税課税を避けるには
a.総公司が増値税発票(インボイス)を発行する
b.代金の回収を総公司が行う
の2条件を充足する必要がある(国税発[1998]137号)
* みなし販売行為が認定された場合の売買価格の推定計算は下記の順序にて判定される。
a.納税人が同一月において同類の物品を販売した場合の平均価格
b.納税人が直近において同類の物品を販売した場合の平均価格
c.推定売買価格=原価x(1+利益率)
この場合の利益率は10%(国税発(1993)154号)とされる。
* 上記推定計算は、低廉販売行為が認められた場合に税務局が更正する際の基準としても用いられる。国内グループ間取引の移転価格問題と併せ、増値税の角度からもその取引価格の正当性が問われることに留意するべきである。
(留意点)混合販売行為
混合販売行為とは、増値税の対象となる物品販売と営業税の対象となる課税役務の提供を合わせて行う販売行為を指す。主として物品の生産、卸売りまたは小売に従事する企業等(年間の営業収入に占める物品販売額の割合が50%を超える場合)の混合販売行為は物品の販売とみなされて増値税の対象となり、その他の企業等の混合販売行為は課税役務の提供とみなされて営業税の対象となる。例えば、什器、備品等の物品販売とその据付工事を合わせて行う場合等が混合販売行為に該当する(財税字[1994]26号)。
なお増値税の対象となる物品販売または役務提供と、営業税の対象となる課税労務(増値税の非課税役務)の提供を兼営している場合には、それぞれの販売額または営業額を正確に区分計算しなければならず、それができなければ全て増値税の対象となる。
(留意点)アフターサービスに対して課される税金
営業税は地税管轄、増値税は国税管轄であり1つの取引に両税が課されることはないが、納めるべき税目の明確化が必要。
増値税法に言う加工とは、委託方が原料或いは主要原料を提供し、受託側が委託側の要求に基づき有形物(貨物)を製造し加工賃を受取る業務を指し、修理・組立修理とは損傷或いは機能を喪失した有形物に対して修理を行ない、その原状及び機能を回復させる業務を指す。
営業税の関連規定(国税発(1993)149号)では、営業税項目のうち服務業は、設備、工具、場所、情報或いは技能を利用して社会にサービスを提供する業務を指し、“属地”原則に基き、実際に労務を提供した場所において営業税を納付する。
アフターサービスが修理を伴わない単なる技術的アドバイスの提供であれば営業税の対象業務、修理を含む場合には増値税対象。営業税業務であっても、物品の販売に併せて提供される場合、契約上及び請求の上においても明確な区分けが必要(非課税労務の兼営)、でなければ混合販売として取引総額に対して増値税を計算する。
税率だけで有利不利を判断できないので、仕入税額控除の可能性等も勘案して取引スキーム及び契約の表現を検討する必要がある。
付随して、保税区貿易会社が顧客先にて提供するアフターサービスが保税区内の業務に従事することを規定している保税区管理条例等関連規定に逸脱していないかという業務範囲の問題がある。
② 課税対象売上高
売上高には相手先より受取る対価に加え、それ以外に得る実費等費用も含む。
例えば、手続費、手当、違約金(支払期日オーバーの利息など)、包装代、咚唾M、立替金などである。このうち立替輸送費については、(1)咚突嵘绀锲筏钨徣胝咄黏皮诉賃発票を発行し、(2)納税人がこれを購入者に渡す、ことを条件に増値税の計算に含めないことができる。
* 実費等費用は会計上、立替金等その他資産負債科目やその他業務収入、営業外収入で計上したり、費用の直接減額で処理されたりすることが多く、通常の売上高とは別に処理されることが多いことから増値税の計上漏れとなりがちであり、注意を要する。
* 外貨建てで売上高が計上(確定)される場合には、発生日のレートで或いは当月1日の為替レートにて人民元に換算するものとし、確定後1年間は変更してはならない。
(留意点) 割引販売の処理
物品を割引販売する場合、販売額と割引額が同一の発票上にそれぞれ明記されていれば、割引後の販売額により増値税を計算することができるが、割引額について別途発票を発行する場合には、財務上の処理に関わらず、販売額から割引額を控除することはできない。その趣旨は、販売先が割引前の金額で仕入税額の控除をする場合に実質的な二重控除を排除することにあると考えられる。割引条件は一般に販売時に明確にされているものであり(例えば、5点買えば10%引き、10点なら20%)、同一伝票での記載は可能だという想定もある(国税発[1993]154号)。
(留意点)売上割引の取扱い
割引販売と異なり、売上割引は一般に債権回収を促進する目的等で、販売後10日以内回収は2%割引、20日以内なら1%などと決められるため、販売行為とは異なる一種の理財行為と考えるべきであり、その意味から売上増値税からの控除はできない。
(留意点)返品及び売上値引の処理
売上割引に対して、返品や売上値引は製品の品質に問題がある等の理由で生じるものであり販売した物の価値を減額することは認められる。技術的には、
・購入側がまだ代金の支払がなく記帳していない(仕入増値税未処理)場合には発票の返還を求め、これを取消処理して新たな減額後の増値税発票を発行する
・購入側が既に代金を支払っている、或いは記帳済み(仕入増値税既計上)の場合には購入側所轄の税務局の発行する証明を取得して販売側に送付、販売側はこれを以って売上取消(赤字)発票を発行する。購入側はこの赤字発票を受領後、当期の仕入増値税額を減額処理する
ことが必要である(国税発(1993)150号)。
(留意点) 貸倒債権に含まれる増値税額
売り手が発票を発行し、増値税を納付した後に発生した貸倒損失については増値税とは無関係であり、売上及び売上増値税の計上取消もできなければ仕入増値税への振替も不可。
③ 免税項目
・下記項目は増値税が免除される。
a.農業生産者が販売する自作農業品
b.避妊薬品及び用具
c.古書
d.科学研究のために輸入する設備、器具
e.外国政府、国際組織の無償援助輸入物品設備
f.原料輸入加工、部品輸入組立及び保証貿易のために輸入が必要な設備
国家産業政策に合致する投資プロジェクト(奨励類分類)の、投資総額内で輸入する自社使用設備。
100%製品を輸出する許可類プロジェクトについては、一旦徴収し5年間にわたり、 100%輸出の事実を確認しながら還付する(2002.10.1~:財税(2002)146号)。
g.身体障害者組織が身体障害者に提供するために輸入する専用物品
h.自己使用後に販売する物品(固定資産等)
下記3条件を充足する必要がある。
(1)固定資産台帳への記載があること
(2)固定資産として管理され実際に使用後の物品であること(この意味で1年以上の使用があることが実質的に必要)