芥川龙之介《秋》(日文版)。。。
时间:2007-03-15 19:07:52 来源:| 作者:
信子はふと眼を挙げた。その時セルロイドの窓の中には、ごみごみした町を歩いて来る、杖を抱へた従兄の姿が見えた。彼女の心は動揺した。俥を止めようか。それともこの儘行き違はうか。彼女は動悸(どうき)を抑へながら、暫くは唯幌の下に、空(むな)しい逡巡を重ねてゐた。が、俊吉と彼女との距離は、見る見る内に近くなつて来た。彼は薄日の光を浴びて、水溜りの多い往来にゆつくりと靴を運んでゐた。\
「俊さん。」――さう云ふ声が一瞬間、信子の唇から洩れようとした。実際俊吉はその時もう、彼女の俥のすぐ側に、見慣れた姿を現してゐた。が、彼女は又ためらつた。その暇に何も知らない彼は、とうとうこの幌俥とすれ違つた。薄濁つた空、疎(まば)らな屋並、高い木々の黄ばんだ梢、――後には不相変(あひかはらず)人通りの少い場末の町があるばかりであつた。
「秋――」
信子はうすら寒い幌の下に、全身で寂しさを感じながら、しみじみかう思はずにゐられなかつた。
(大正九年三月)
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