(3)少数株主持分
前述のように現在の連結財務諸表規則では発行済株式(議決権)の50%超を実質的に保有していることが連結の対象となる子会社の条件となります。
被連結子会社の資本に外部の株主が少数持分を持っていることがあります。その場合、連結貸借対照表の資本の部には子会社の純資産の内、親会社の持分だけしか計上できませんから連結子会社の資本勘定の内、他の株主の持分相当額は少数株主持分として負債の一番下に計上されます。
(4)持分法
親会社の投資対象会社の内、相手の議決権の20~50%を持っている会社は支配はできませんが、ある程度影響力は行使できることから、関連会社といいます。関連会社への投資もそれらの会社の財政状態、経営成績を連結財務諸表に反映させるため、持分法によって評価されます。
対象会社の利益剰余金等資本勘定の増減に応じて、所有会社が、その持分相当額で投資有価証券を評価するのが持分法です。持分法で評価することによって対象会社の経営成績の内、企業グループに属する分だけを連結財務諸表に反映させることができるのです。
連結された場合、資産や負債もすべて合算されますが、持分法が適用されると損益と持分の変動だけが反映されることになるわけです。もちろん、持分法を適用するに当たっては、親会社の利益から、対象会社から受け取った配当金及び相互の取引によって発生した未実現損益はそれぞれ差し引かれねばなりません。
連結の範囲のところで述べました「重要性に乏しい」として連結の範囲からはずれた子会社株式もこの特分法によって評価されます。[next]第8回 連結財務諸表 その2
企業の変化で連結の重要性高まる
わが国では、法人企業はそれぞれ独立的に邌婴丹欷雽g体であり、債権・債務も個別に認識され、処理されるのをルールとしてきました。ひとつひとつの法人に責任をとらせることによって取引の安全を図り、社会全体の経済発展を望んだわけです。ですから、企業の財務報告も個別に作成されるのがあたりまえで連結財務諸表制度という考え方はもともとわが国の制度にはありませんでした。
企業グループといわれるものも、財閥グループのような緩いつながりのものはあっても、各種の企業を束ねて統一した意志で経営する、という形はあまり見られませんでした。中心となる大企業が本業に付帯する業務を子会社にやらせたり、他社と合弁会社を作ったり、企業買収や資本参加をしたりして新規の事業に進出するという例が多かったようです。子会社をはじめ、とりまく企業群も中心となる大企業に従属し補完する存在でしかありませんでした。
わが国で連結財務諸表制度が開始されたころは個別と連結との差の大きい会社は少なくて、連結が個別の1割か2割増程度の総資産・売上高という例が多かったようです。ですから個別財務諸表だけでは企業実態が全く解らないというような会社はまれでした。それでも連結財務諸表の作成が必要とされたのは、前回にも述べましたように、関係会社が売上高や利益を多く見せるお化粧の道具に使われる例が目につきだしたからです。
企業の財務分析の方法として、わが国において連・単比較が重要視されるのもこのような事情を反映しているからと思われます。ところが、最近では企業の活動が国際的な広がりを持ってきたり、本業から離れた分野への多角化が進んで行くにしたがい、子会社の活躍分野が拡大したり、事業の中の特定の機能を分社化する例も出てきて、連結財務諸表でなければ実態が解らない会社が飛躍的に増えてきています。[next]持株会社には連結財務諸表が必須
米国においてはじめから連結財務諸表の作成が義務づけられているのは、持株会社の下に実際の事業を行う子会社がいくつもぶら下がっているという形態をとる企業が多いという事情があるからです。
例えばペプシコという会社は、事業の内容として、清涼飲料、スナック菓子及びレストラン・チェーンの3部門がありますが、3事業とも数多くの専門の子会社が実際の事業を行っています。公開されているペプシコ社は持株会社で、数多くの事業邌幼踊嵘缰晔饯虮S肖贰ⅴ哎氅`プ全体の戦略を立てて司令している、いわば参直静郡韦瑜Δ蚀嬖冥扦埂連結ベースが主体になる
証券取引法の連結財務諸表制度は最近大きな改正に向かって動き出しました。企業会計審議会が6月6日に「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」を発表しました。それにしたがって規則の改正が行われますと98年4月以降開始する事業年度から順次、新しい規則により連結財務諸表が公表されることになります。
改正の主な点は、
1. 従来、個別情報を中心としていたディスクロージャーを連結情報を中心としたものへ転換する
2. 連結の範囲の見直し等、連結財務諸表作成手続きの改訂整備
の二つに大別できます。
意見書の全部を紹介することはできませんので改正点の内、筆者が重要と考えていることを二つだけ説明します。
その一つは有価証券報告書の財務諸表の記載の順序が従来の個別・連結の順序から、逆の連結・個別に変わることです。そして、「営業の状況」や「設備の状況」の情報を連結ベースで記載するようになります。その結果「営業の状況」等における個別情報や、連結財務諸表では相殺消去される関係会社に関する付属明細表の一部がなくなったり省略されます。
また従来、資金収支の状況は個別ベースで作成され、監査の対象ではありませんでしたが、連結財務諸表の一部として連結キャッシュフロー計算書が作成されます。連結財務諸表の一部ということは監査の対象となりますから情報の信頼性は著しく高まるのです。
さらに、連結子会社を持っていないため連結財務諸表を作成しない会社についても個別財務諸表に関連会社に持分法を適用した場合の投資損益を注記で説明させるという改正も行われます。
連結の範囲が広がる
二番目は今回の改正のハイライトともいうべき点を含んでいます。連結対象会社の範囲は従来、相手の会社の議決権の過半数を所有している子会社だけだったのですが、改正後はそれだけにとどまらず、その他各種の手段で実質的に支配している会社をすべて被連結会社とするようになります。
上場会社の中には新規に事業進出するときに新会社の資本金を企業規模に比較して極端に小さく、かつ、数人で分散出資して設立し、名目的な資本の所有関係では支配が及ばないように見せ、代わりに役員や資金の面で実質的に支配する会社を作っている例が少なからずあります。
例えば、ある小売店チェーンの会社では、大規模な店舗を各地に展開するのに自社で直接設備投資をせずに一つ一つ別会社で行っています。店舗の規模は100億円を超える巨額の投資になるのに、当該会社は資本金1~2億円の小規模なものとし、親会社は20%未満の出資しかせず、残りは役員その他の関係者、あるいは商品供給会社等に分散して出資させています。
このようにすれば形式的には子会社はおろか関連会社でもなくなりますから、連結対象にも、持分法評価の対象にもなりません。その上で、店舗建設等の必要資金のほとんどは親会社からの貸付金または保証によって銀行から借入れて調達します。多額の債務保証という方法で完全に支配していることは明らかですし、財政状態に大きな影響を与えるおそれのある会社なのに、議決権の過半数所有を連結対象の条件としている現行の連結財務諸表規則では、親会社の連結財務諸表には原価法で評価される数千万円の投資有価証券としてしか表示されないことになります。したがって、その会社がどの位の規模の事業を行い、利益を上げているのか、損を出しているのか全く投資家の目には触れなくなってしまいます。たとえその会社の借入金の返済が滞りそうになっていたとしても、親会社が保証の履行を要求されるまでは表面には出てきません。
株式の所有形態は、いくつもの実質的な子会社が相互に持ち合うことによって、親会社の持分を表面上僅かなものにするという手段がとられる場合もあります。例えば、A社は実質親会社(P)の持分は18%のみで、残りはB、C、D、E、Fという会社が15~6%ずつ所有しているとします。B、C、D、E、Fも同じような比率で相互に出資をした会社にします。少数株主による網の目のような相互出資関係をB社以下の各社にも作っているのです。
このような場合株主資本は全く名目的ですから経営の支配には意味を持っていません。それなのに連結財務諸表の連結対象を選ぶ基準が株式の過半数所有だけで決められていたために、その会社は連結財務諸表を作成せずに済んだり、作成されていても実質的な企業グループの実体を表さないことになります。
今度の改正で連結対象の子会社の範囲を親会社が直接・間接に議決権の過半数を所有していることだけでなく、議決権の所有割合が50%以下であっても、高い比率で議決権を所有しており、かつ、その会社の経営意志の決定機関を支配している事実が認められる場合は子会社として連結の対象に含めなければならないことになりました。
そのほかにも今回の意見書には、会計上と税務上で収益や費用の認識時点に相異がある場合に調整を図る税効果会計の適用が、現在は任意であるものを全面適用とするというような重要な改正も含まれています。