4 【歌調】
「歌調」とは、歌のリズム、いわゆる「調子」のことで、今風の歌(音楽)でいえば「拍子」とか「ビート」とかにあたります。和歌の中に五七、七五の歌調が有る。
1)五七調: 雄大・素朴・男性的なリズム。力強く、荘重な調べとなる。「万葉集」に多い。一般てきに、二句・四句切れの和歌が五七調である。
例えば: わびぬれば 今はたおなじ
難波なる みをつくしても
逢はむとぞ思ふ
[20/恋/元良親王/後撰集]
2)七五調: 優美・なだらかなリズム。繊細・優美な調べとなる。『古今集』以後の歌集に多い。一般てきに、初句・三句切れの和歌が七五調である。例えば:
契りかな
かたみに袖を しぼりつつ
末の松山 波越さじとは
[42/恋/清原元輔/後拾遺集]
なお、句切れがあれば、格調は必然的に決まってくるが、句切れがないときは、意味のつながり(枕詞・序詞など)や言葉の使い方などから判断することになる。例えば:
これやこの
行くも帰るも 別れては
知るも知らぬも あふ坂の関
[10/雑/蝉丸/後撰集]
此処の七五調が対句という表現から判断されたんである。また、格調は、歌の雰囲気や印象を左右するだけではない。歌の内容もこれに従って述べられる。(つまり、句読点のようなもの。)格調をおさえておかなければ歌の意味を取り違えてしまう場合もある。例えば:
奥山に 紅葉踏み分け鳴く鹿の 声きくときぞ 秋はかなしき
[5/秋/猿丸大夫/古今集]
この歌を[五七調]とみるなら、「紅葉踏み分け」と、「鳴く鹿」の間には断層があるので、「紅葉踏み分け」ているのは作者ということになる。
奥山に 紅葉踏み分け
鳴く鹿の 声きくときぞ
秋はかなしき
意味:
奥山に紅葉を踏み分け
鳴く鹿の声を聞く時こそ
秋は悲しいものだ
一方、[五七調]とみるなら、「紅葉踏み分け」は、「鳴く鹿」に従属する語句となり、「紅葉踏み分け」ているのは、「鳴く鹿」ということになる。
奥山に
紅葉踏み分け 鳴く鹿の
声きくときぞ 秋はかなしき
意味:
奥山に
紅葉を踏み分けて鳴く鹿の
声を聞く時こそ秋は悲しい