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芥川龙之介《秋》(日文版)。。。
时间:2007-03-15 19:07:52  来源:|  作者:


 
   其処へ女中も帰つて来た。俊吉はその女中の手から、何枚かの端書(はがき)を受取ると、早速側の机へ向つて、せつせとペンを動かし始めた。照子は女中も留守だつた事が、意外らしい気色を見せた。「ぢや御姉様がいらしつた時は、誰も家にゐなかつたの。」「ええ、俊さんだけ。」――信子はかう答へる事が、平気を強(し)ひるやうな心もちがした。すると俊吉が向うを向いたなり、「旦那様に感謝しろ。その茶も僕が入れたんだ。」と云つた。照子は姉と眼を見合せて、悪戯(いたづら)さうにくすりと笑つた。が、夫にはわざとらしく、何とも返事をしなかつた。
 
   間もなく信子は、妹夫婦と一しよに、晩飯の食卓を囲むことになつた。照子の説明する所によると、膳に上つた玉子は皆、家の鶏が産んだものであつた。俊吉は信子に葡萄酒をすすめながら、「人間の生活は掠奪(りやくだつ)で持つてゐるんだね。小はこの玉子から」――なぞと社会主義じみた理窟を並べたりした。その癖此処にゐる三人の中で、一番玉子に愛着のあるのは俊吉自身に違ひなかつた。照子はそれが可笑(をか)しいと云つて、子供のやうな笑ひ声を立てた。信子はかう云ふ食卓の空気にも、遠い松林の中にある、寂しい茶の間の暮方を思ひ出さずにゐられなかつた。
 
   話は食後の果物を荒した後も尽きなかつた。微酔を帯びた俊吉は、夜長の電燈の下にあぐらをかいて、盛に彼一流の詭弁(きべん)を弄した。その談論風発が、もう一度信子を若返らせた。彼女は熱のある眼つきをして、「私も小説を書き出さうかしら。」と云つた。すると従兄は返事をする代りに、グウルモンの警句を抛(はふ)りつけた。それは「ミユウズたちは女だから、彼等を自由に虜(とりこ)にするものは、男だけだ。」と云ふ言葉であつた。信子と照子とは同盟して、グウルモンの権威を認めなかつた。「ぢや女でなけりや、音楽家になれなくつて? アポロは男ぢやありませんか。」――照子は真面目にこんな事まで云つた。
 
   その暇に夜が更けた。信子はとうとう泊る事になつた。

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