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芥川龙之介《秋》(日文版)。。。
时间:2007-03-15 19:07:52  来源:|  作者:


   それから程なく、母の手紙が、信子に妹の結納(ゆひなふ)が済んだと云ふ事を報じて来た。その手紙の中には又、俊吉が照子を迎へる為に、山の手の或郊外へ新居を設けた事もつけ加へてあつた。彼女は早速母と妹とへ、長い祝ひの手紙を書いた。「何分当方は無人故、式には不本意ながら参りかね候へども……」そんな文句を書いてゐる内に、(彼女には何故かわからなかつたが、)筆の渋る事も再三あつた。すると彼女は眼を挙げて、必(かならず)外の松林を眺めた。松は初冬の空の下に、簇々(そうそう)と蒼黒く茂つてゐた。\
 
   その晩信子と夫とは、照子の結婚を話題にした。夫は何時もの薄笑ひを浮べながら、彼女が妹の口真似をするのを、面白さうに聞いてゐた。が、彼女には何となく、彼女自身に照子の事を話してゐるやうな心もちがした。「どれ、寝るかな。」――二三時間の後、夫は柔(やはらか)な髭を撫でながら、大儀さうに長火鉢の前を離れた。信子はまだ妹へ祝つてやる品を決し兼ねて、火箸で灰文字を書いてゐたが、この時急に顔を挙げて、「でも妙なものね、私にも弟が一人出来るのだと思ふと。」と云つた。「当り前ぢやないか、妹もゐるんだから。」――彼女は夫にかう云はれても、考深い眼つきをした儘、何とも返事をしなかつた。
 
   照子と俊吉とは、師走(しはす)の中旬に式を挙げた。当日は午(ひる)少し前から、ちらちら白い物が落ち始めた。信子は独り午の食事をすませた後、何時までもその時の魚の匂が、口について離れなかつた。「東京も雪が降つてゐるかしら。」――こんな事を考へながら、信子はぢつとうす暗い茶の間の長火鉢にもたれてゐた。雪が愈(いよいよ)烈しくなつた。が、口中の生臭さは、やはり執念(しふね)く消えなかつた。……

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