舞姬 森鸥外 (日文版)
时间:2007-03-15 01:10:30 来源: 作者:
食卓にては彼多く問ひて、我多く答へき。彼が生路は概ね平滑なりしに、轗軻數奇なるは我身の上なりけれぱなり。
余が胸臆を開いて物語りし不幸なる閲歴を聞きて、かれは屡々驚きしが、なかなかに余を譴めんとはせず、却りて他の凡庸なる諸生輩を罵りき。されど物語の畢りしとき、彼は色を正して諫むるやう、この一段のことは素と生れながらなる弱き心より出てしなれば、今更に言はんも甲斐なし。とはいへ、學識あり、才能あるものが、いつまでか一少女の情にかゝづらひて、目的なき生活をなすぺき。今は天方伯も唯だ獨逸語を利用せんの心のみなり。おのれも亦伯が當時の免宮の理由を知れるが故に、張て其成心を動かさんとはせず、伯が心中にて曲庇者なりなんど思はれんは、朋友に利なく、おのれに損あれぱなり。人を薦むるは先づ其能を示すに若かず。これを示して伯の信用を求めよ。又彼少女との關係は、縦令彼に誠ありとも、縦令情交は深くなりぬとも、人材を知りてのこひにあらず、慣習といふ一種の楕性より生じたる交なり。意を決して斷てと。是れその言のおほむねなりき。
大洋に舵を失ひしふな人が、遥かなる山を望む如きは、相澤が余に示したる前途の方鍼なり。されどこの山は猶ほ重霧の間に在りて、いつ往きつかんも、否、果して往きつきぬとも、我中心に滿足を與へんも定がならず。貧きが中にも樂しきは今の生活、棄て難きはエリスが愛。わが弱き心には思ひ定めんよしなかりしが、姑く友の言に從ひて、この情縁を斷たんと約しき。余は守る所を失はじと思ひて、おのれに敵するものには抗抵すれども、友に對して否とはえ對へぬが常なり。