急な仕事が入った。
新しいお客さんに会うときは、いつも少し怖い。また、髪をつかまれて、頬が腫れるほど殴られて、真っ暗な草むらに裸足で放り出されるかもしれないから。
「三倍料金を払えばいいんだろう」
って、三つの顔がいやらしく笑ってるかもしれないから。
生きたまま皮膚を剥がれ、手足を千切られ、喰われるというのは、こんな感じなのかと思った。叫んだら喉が潰れてしまう。だから、奥歯を強く噛みしめ、唇を結んで、ただ泣いていたら、興ざめだって、もっと殴られた。私は彼らにとって、人間ではなく名前のない豚だった。ううん、きっと他の人たちにとっても……。
ななせからメールと留守電が入ってる。井上くんのことで、すごく混乱して、今にも泣いてしまいそうな声。クラスの友達に、なにか言われたらしい。私に会いたいって言ってる。
すぐに飛んでいって、朝まででも話を聞いてあげたい。頭をなでて慰めてあげたい。
ななせが泣くのは、我慢できない。私まで、苦しくて息が止まりそうになってしまう。
けれど、今は無理。出かけないと、遅刻してしまう。
ななせには、あとで電話するとメールした。
彼にもメールをしなければ。
私は彼に相応しくない。彼といると、あの気高さや純粋さを、私の体についた泥が汚してしまう。綺麗な指で優しく触れられるたび、私は愛される資格なんてないんだって、絶望が込み上げてきて、死にたくなる。
彼の名を貶めたくない。彼を穢したくない。それは嫌っ! 絶対に嫌っ!
彼のことが好きでたまらなくて、彼のためなら死ぬより辛いことでも耐え続けることができると思うから、私はいつか彼とお別れしなければいけない。
私の愛は、この世では悲しすぎる。空の上を歩かせなければ、清らかにはならない。
だけど、ごめんなさい。もう少し――あと少しだけ、そばにいさせて。その手に触れさせて。せめて、発表会が終わるまでは。
本当にもう間に合わない。
いってきます、ななせ。