時々篝火が崩れる音がする。崩れるたびに狼狽(うろた)えたように焔(ほのお)が大将になだれかかる。真黒な眉の下で、大将の眼がぴかぴかと光っている。すると誰やら来て、新しい枝をたくさん火の中へ抛げ込んで行く。しばらくすると、火がぱちぱちと鳴る。暗闇(くらやみ)を弾(ひ)き返(かえ)すような勇ましい音であった。
篝火不时地发出散架塌落的声音。每当篝火散架塌落,惊慌飘忽的火焰便向那将军扑去。漆黑的浓眉之下,将军的双眸炯炯闪亮。篝火散架塌落,马上会有人抱来新的树枝抛入火中。不一会,烈火便劈劈啪啪地爆响起来。那声音是驱赶黑暗,振奋人心的声音。
この時女は、裏の楢(なら)の木に繋(つな)いである、白い馬を引き出した。鬣(たてがみ)を三度撫でて高い背にひらりと飛び乗った。鞍(くら)もない鐙(あぶみ)もない裸馬(はだかうま)であった。長く白い足で、太腹を蹴ると、馬はいっさんに駆け出した。誰かが篝りを継ぎ足したので、遠くの空が薄明るく見える。馬はこの明るいものを目懸けて闇の中を飛んで来る。鼻から火の柱のような息を二本出して飛んで来る。それでも女は細い足でしきりなしに馬の腹を蹴っている。馬は蹄の音が宙で鳴るほど早く飛んで来る。女の髪は吹流しのように闇の中に尾を曳いた。それでもまだ篝のある所まで来られない。
这时,一个女子将一匹栓在后山橡树上的白马牵了出来。她轻抚了三下马的鬃毛,便轻巧地纵身跃上了高高的马背。那是一匹没鞍没镫的光背马。只见那女子用她那修长白皙的双腿,磕了一下马肚,马儿便一溜烟地飞奔起来。由于又有人在篝火中添了树枝,使远处的天空微微发亮。马儿正冲这亮光在黑暗中飞奔而来。那马直跑得鼻孔中喷出两道火柱一般的热气。尽管如此,那女子仍不停地用修长的双腿踢着马肚子。马儿飞一般地扑来,马蹄声响彻天空。那女子的长发如同旗幡一般在黑暗中迎风飞扬。然而,那骑马的女子仍到不了篝火的近前。
すると真闇な道の傍で、たちまちこけこっこうという鶏の声がした。女は身を空様(そらざま)に、両手に握った手綱をうんと控えた。馬は前足の蹄(ひづめ)を堅い岩の上に発矢(はっし)と刻み込んだ。
就在这时,从漆黑的路旁,“喔、喔、喔!”响起一声鸡鸣。那女子身子临空,双手紧拽缰绳。马的前蹄“锵”地一声敲在坚硬的岩石上。
こけこっこうと鶏がまた一声鳴いた。
“喔、喔、喔!”,又是一声鸡鸣。
女はあっと云って、緊めた手綱を一度に緩めた。馬は諸膝(もろひざ)を折る。乗った人と共に真向へ前へのめった。岩の下は深い淵であった。
那女子“啊”地叫了一声,松开了收紧的缰绳。马儿屈下双膝,连同背上的人一起朝前栽了下去,而岩石之下,则是万丈深渊。
蹄の跡はいまだに岩の上に残っている。鶏の鳴く真似をしたものは天探女(あまのさぐめ)である。この蹄の痕の岩に刻みつけられている間、天探女は自分の敵である。
马蹄印至今仍清晰地留在岩石上。而那模仿鸡叫的就是天探女(注:日本古代神话中,唆使天稚彦射杀奉天照大神前来质问的雉的恶女之名)。只要这马蹄印还印在那岩石上,天探女便是我不共戴天的仇敌。