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『野村美月』文学少女 txt日文版 连载1
时间:2009-07-16 13:06:27  来源:  作者:

『――眠ってるとこ起こされたから、よく覚えてないんだけど……〝クリスマスツリーがとても綺麗なの ? とか〝彼が抱きしめてくれて、あったかい ? とか、そんなことをぺらぺら話してた。あのときの夕歌も、異様にはしゃいでいて、おかしかった』

 ラウルは、ぼくらの学園にいる。

 水戸さんの彼は、自分の彼女が失踪中であることを、知っているのだろうか?

 琴吹さんの話では、水戸さんが行方を絶つ直前まで、二人は一緒にいたことになる。

 だとしたら、水戸さんの居場所を知っているのは、天使ではなく彼のほうなのではないか?

 もうひとつ引っかかるのは、何故水戸さんが失踪したあとも、琴吹さんにメールを送り続けたのかということだった。

 水戸さんから最後に電話があったのは十日前。その日から水戸さんは学校を休んでいる。なのに、それ以降も、二人は普通にメールのやりとりをしている。水戸さんは、琴吹さんに失踪を知られたくない理由があったのだろうか?

 そして、水戸さんからメールが途絶えたのは三日前――。今、水戸さんはどうしているのか?

 脳みそがきりきり引き搾られ、耳鳴りがしてきて、ぼくはベッドに仰向けになり、文庫を開いたまま胸に乗せ、浅い息を吐いた。

 わからないことが多すぎる。

 もし、遠子先輩がいてくれたら――。

 あのお節介で能天気でズボラで、そのくせヘンなところに敏感で、優しい目をしたあの〝文学少女 ? なら、この物語をどう読み解くのだろう。

「電話……してみようかな」

 顔を横に向け、机の上の携帯電話を見つめると、胸の奥の方が擦れるように疼いた。

「……携帯の番号とメアド、まだ教えてないし」

 遠子先輩は携帯を持っていない。救いようのない機械音痴だから、メールのアドレスなんか渡しても、絶対に使わないだろうけど……。

 そんなのは口実で、あの、あたたかでお気楽な声が、今、聞きたくてたまらない。

 いや、ダメだっ。遠子先輩は受験生なんだから、巻き込んじゃいけない。あの人のことだから、話せば果てしなく首を突っ込んでくるに決まっている。

 胸が切なくなり、携帯から目をそらし、シーツをぎゅっと握りしめる。

 そうだ、春になったら遠子先輩は卒業して、いなくなってしまうのだから……。

 いきなり携帯が鳴り出したので、ぼくは心臓が止まりそうになった。

 まさか、遠子先輩 !?

 慌てて机に駆け寄り、着信を確かめる。相手は芥川くんだった。

「もしもし、井上?」

「芥川くん……どうしたの、急に?」

「いや、琴吹のことで、大変そうだったんで、気になってな。困ってることはないか?」

 それは芥川くんらしい気遣いだった。

 こわばっていた気持ちがほどけ、声が自然とやわらかくなる。彼と友達になれてよかったと思った。

「ありがとう。こっちは大丈夫だよ。琴吹さんも森《もり》さんたちと、仲直りしたみたいだし」

「そうか。オレが力になれることがあったら、なんでも言ってくれ。どんな小さなことでもかまわない。遠慮はするな」

「うん、ありがとう」

 翌日。教室で芥川くんと顔をあわせて、ぎょっとした。

「どうしたの !?  その傷!」

 右の頬と首筋に、爪で縦に引っかかれたような痕がある。首筋の三本の線は、かなり深そうで、紫色に腫れ上がっていて痛々しい。

「ちょっと……猫にな」

 芥川くんが苦笑し、ほんの少し目をそらす。

「すごく痛そうだよ、大丈夫」

「ああ……大したことはない」

 また少しだけ、目を横にそらす。

「ずいぶん凶暴な猫だね。あれ? でも、きみんち、猫なんて飼ってたっけ?」

 何度か訪問したけど、庭に鯉が泳いでいたくらいで、猫の姿は見なかったような……。

「いや……よその猫だ。扱いがまずくて、機嫌を損ねてしまったらしい」

 視線を落ち着かなげに移動させながら、奥歯にものが挟まった口調で言う。

 それからいきなり真剣な顔になり、ぼくをじっと見つめ、尋ねた。

「それより、井上は変わりはないか?」

「昨日、会ったばかりじゃないか。電話でも話したし。あ、電話ありがとう」

「いや、それはいいんだ……。そのあと、おかしな電話やメールが来たりとか、そういったことはなかったか? その……最近そういう着信が多いらしい」

「今のとこ、迷惑メールもワン切りもないよ」

 芥川くんが、さらに顔を近づけてくる。

「携帯のアドレスや番号を変える予定は?」

「ないけど……どうしたのさ? 芥川くん?」

 ぼくの言葉に、我に返ったように身を引き、無理をしているような笑みを浮かべる。

「いや、不都合がないならいいんだ。気にしないでくれ」

 変だな? どうしたんだろう? 怪訝に思ったけれど、琴吹さんのことで手いっぱいで、それ以上追及できなかった。

 放課後、昨日の喫茶店で、水戸さんのクラスメイトに会った。

 彼女たちも、水戸さんの歌が急に上手くなったことに驚いていた。

「主役に選ばれたのも、大抜擢だったんだよ。トゥーランドットは高慢で冷酷なお姫様だから、全然水戸さんのイメージじゃなかったのに」

「相手役のカラフは、若手ナンバー1プロの荻原さんでね、二幕の問いかけのシーンで、荻原さんの声に負けて、ずたぼろなんじゃないかって、悪口言われてたんだよ」

 ところが、稽古がはじまってみると、水戸さんの声は、客演のプロの歌手を圧倒する勢いだったという。

「水戸さんは内緒にしてたけど、きっと、すごく有名な先生にレッスンを受けてたんだよ。じゃなきゃ、急にあんな声、出せないって。今も、水戸さんが休んでるのは、どっかで秘密特訓をしてるんじゃないかって言われてるし」

「うん、それなら水戸さんが役を降ろされないのも納得かな。バックにお偉いさんがついてるって噂も前からあるよね。水戸さんを主役に推したのも、その人なんじゃないかって」

「そのお偉いさんが、誰だかわかる?」

「さぁ……」と首を傾げたあとで、思い出したように言った。「あっ、でも! あたし、水戸さんが、黒いスーツを着た男の人と、外車に乗るのを見たことあるんだ。肩なんか抱かれて怪しい雰囲気で、水戸さんはその人に『ツバキ』って呼ばれてた……」

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