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『野村美月』文学少女 txt日文版 连载1
时间:2009-07-16 13:06:27  来源:  作者:

店を出たあと、クリスマス用の、白と金色のイルミネーションに照らされた通りを、琴吹さんと並んで歩いた。

 二人で、ぽつぽつと話をする。

「ツバキって、水戸さんのあだ名かな? 琴吹さんは知ってる?」

「ううん。夕歌が〝ツバキ ? って呼ばれてたことはなかったと思う。それより……夕歌はやっぱり天使のとこにいるのかな。夕歌が学校を休んでいる間に届いたメールにも、天使とレッスンをしてるみたいなことが、ずっと書いてあったし……。夕歌を〝ツバキ ? って呼んでた男が、天使なのかも」

 琴吹さんの表情は険しい。どうも、琴吹さんは音楽の天使に敵意を抱いているようで、親友の失踪を、完全に天使と結びつけて考えているようだった。

『オペラ座の怪人』でも、クリスチーヌを地下の帝国に攫ったのは、醜い顔を仮面で隠して天使のふりをしたファントムだったので、気持ちはわかるのだけど……。

 けど、琴吹さんが言うように、本当に水戸さんはファントムのもとにいるのだろうか?

 失踪した前の夜は彼氏と一緒だったというし、断定はできない。

 一体、水戸さんはどこへ行ったのだろう? 何故、寮へ戻ってこないのだろう?

 琴吹さんへのメールは、まだ途絶えたままだという。

 冷たい空気が、肌をひりひりとなでる。空は曇っていて、月も星も見えない。人工の灯りだけが道を照らし、ぼくらの気持ちとは裏腹に、にぎやかなクリスマスソングが流れている。

 琴吹さんが、弱気な目になり言った。

「あたし、自分がラウルになったみたいな気がする。クリスチーヌとファントムのこと嫉妬して、おろおろして、ファントムに攫われたクリスチーヌを助けにいっても、全然役に立たなくて……」

「そういう主人公も、大勢いるよ」

「『オペラ座の怪人』の主人公は、ファントムじゃないの?」

「まだ途中までしか読んでないけど、ラウルの視点で進んでいくから、ラウルじゃないかな」

「でも、後半は、謎のペルシア人の独白になるんだよ」

「えっ、そうなの !? 」

「ラウルは、あっさりファントムの罠にはまって、いいとこナシだよ」

「うーん……」

 琴吹さんが唇を尖らせ、悔しそうに、哀しそうに、つぶやく。

「やっぱりラウルは役立たずだ」

「でも、ぼくはラウルを応援するよ。ラウルがクリスチーヌを救出して、ハッピーエンドになればいいって思いながら、続きを読むよ」

 笑顔で告げると、琴吹さんはぱっと顔を上げてぼくを見て、すぐに恥ずかしそうにマフラーに顔を埋め、つぶやいた。

「ふ、ふーん、そうなんだ」

 そっぽを向いて照れている様子が可愛くて、つい口元がほころぶ。

 琴吹さんは、そのままぼそぼそと言った。

「あ、あのね……昨日、昔の手紙を調べてたら、夕歌がお母さんの実家から、夏休みに送ってきた絵葉書が出てきたんだ。住所も書いてあった。そこに手紙を出してみようと思うの。もしかしたら、夕歌の家族と連絡がとれるかもしれないし」

 ぼくは微笑んだ。

「うん、それはいい考えだね。早く水戸さんの居場所が、わかるといいね」

◇    ◇    ◇

 天使は、いつも一人で歌っている。

 月の下で、ざわざわと揺れる草むらに立って、哀しい声を藍色の空に響かせる。

 天使は賛美歌が嫌いなのに、天使の声は胸が張り裂けてしまいそうな、悼みと祈りに満ちている。きっと、ここにはいない誰かを想って、天使は歌うのだ。私の知らない誰かの魂を、慰めるために。

 昔、天使は人を殺したという。苺を磨り潰したみたいな真っ赤な血が、青いシートを染めて、床にぽたぽた流れ落ちていったのだって。

 それから、天使のために、何人もの人が亡くなったんだって。

 天使の名前は黒く穢れ、羽根は血で染まり、昼間の世界にいられなくなってしまった。

 かわいそう。

 天使は、とてもかわいそう。

 私は天使の前で、いつも泣いてしまうのに。天使は決して泣いたりしない。私の肩を抱き寄せて、髪をなでて微笑んでくれる。

 天使も泣いてもいいんだよって言っても、哀しいことなんてないから、涙が出ないんだって言う。生まれてから一度も、泣いたことはないんだって。

 そうして、賛美歌は歌ってくれないけれど、子守歌を歌ってくれる。

 私が、怖い夢を見ずにすむように。痛かったことや、苦しかったことを全部忘れて、ぐっすり眠れるように。明日、太陽の下で、罪を隠して、あたりまえの少女のように清らかに笑えるように。

 私が、彼の恋人であり、ななせの親友であることができるのは、天使が歌ってくれるから。そうでなければ、私は自分の汚さや醜さを恥じて、体がすくんでしまい、とても二人の前に立つ勇気が持てない。

 私は天使に許され救われているのに、日の光にあたることを許されず、名を失い、闇の世界に姿を隠すしかない天使のことは、一体誰が救ってくれるのだろう。

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